かつてなかった革新的な医薬品・医療技術の恩恵が受けられる時代を迎えつつある。治療の選択肢がなく、失明を余儀なくされていた患者の視力は再生医療製品によって回復。手立てがなかった難治性がんに、腫瘍が消失するほど劇的な効果を示す抗がん剤が開発されている。
 先端医療技術の恩恵を受けた患者は社会に参加でき、仕事にも復帰できる。患者を支えていた家族は介護から解放される。こうした治癒による経済性と研究開発・製造コストを踏まえて医療技術の価格は決まる。難病に高い効果が見込める革新的な技術ほど高額になるだろう。
 米国で昨年、世界で初めて承認された難治性急性リンパ性白血病の「CAR-T療法」が代表例だ。患者から採取して増殖したT細胞に、がん細胞を特異的に認識して攻撃するよう改変した遺伝子を導入し、血液に戻す。治験では患者9割に効果を示した。投与は1回だけだが価格は5000万円を超える。
 自由保険の米国が、どう償還すればよいのか頭を悩ましているCAR-T療法。ドラッグラグ解消の号令の下、グローバル製薬会社は世界で同時に新薬を開発するスキームを構築しており当然、日本にも間もなく上陸する。承認申請しているノバルティスファーマに続いて、セルジーン、第一三共、武田薬品工業などが開発を進めている。
 日本は、承認した医薬品は原則、保険収載している。ただ、このような高額薬剤を公費で賄えば医療保険財政が一段とひっ迫するのは必至。厚生労働省は最近、売れすぎたC型肝炎薬やがん免疫薬の薬価を例外的に引き下げる場当たり的措置を取ったが、CAR-T療法や多様な再生医療製品、遺伝子治療薬と、これから続々と登場する最先端医療に個別に対応していては、いずれ限界に達する。
 厚労省は高額薬剤の取り扱いについて、ようやく議論を始めたところだが、アステラス製薬の安川健司社長は「いまの日本の薬価制度の下ではリスクが大きすぎてビジネスにならない」と早急な仕組み作りを求める。日本製薬工業協会の中山譲治会長(第一三共会長)は「大事なのは単年度ではなく中長期の発想ができるかだ。悪循環に向かうか好循環に向かうか。日本は岐路に立つ」と指摘する。
 国民皆保険制度の維持はもちろん、イノベーションの促進も重要だ。厚労省の諮問機関は来年10月の消費税増税にともなう薬価改定論議の真っ只中。焦点は改定時期を4月にするか、10月にするか。こんな目先の利害だけに労力を掛けている間に、日本の医療制度は世界に取り残されてしまうのではないか。

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