日本発のエネルギーデバイスであるリチウムイオン2次電池(LiB)を開発し、世界に普及させたキーマンが旭化成フェローの吉野彰氏。同社はLiB用セパレーターで世界トップを走るまでになったが、電気自動車(EV)をはじめとするエコカー市場が急伸する今後を考えると、「日本の部材業界が現在の競争力をいつまでも維持できるか不透明な面もある」と慎重。世界をリードしていくためには、「技術だけではなく、アプリケーションの開発や規格化が重要」と指摘する。グローバルな視点で業界を主導する同氏に今後の展望などを聞いた。
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 - LiB市場は急速に拡大中で、大量のLiBを搭載するエコカーも2012年には本格量産に入る見通しです。LiBの開発者として注目点はどこでしょう。
 まずは欧米勢のLiBへの取り組み方だろう。どんな電池技術が出てくるのか-。携帯機器やパソコン用などの小型民生用は日本とアジアが世界の生産基地であるため、欧米メーカーはたいして関心がなかった。が、自動車となれば地元の一大産業であり、デジタル家電とは事情が違う。ゆくゆくは欧米各地でハイブリッド自動車(HV)やEV用のLiBが現地生産されることになるだろう。これは急ピッチで進む話だ。日本がこれまで通りのリードを保てるかという話になる。LiB業界が今後どうなるかは分からない。
 - 日本が育てたLiB産業ですが、半導体や薄型テレビと同じく海外勢に主導権を握られるかもしれません。
 グローバル化が進むのは仕方がない。問題はそのなかでイニシアチブを取っていけるかどうか。半導体と異なり、LiBは生産ラインさえ作ればモノが出てくるというわけではない。材料技術がブラックボックスとなっていて、これがなければ十分な特性が出せない。“日本の電池”ならではの優れた特性を打ち出し、イニシアチブを取る。そのうえで海外企業にも協力する。これは単なる技術流出とは違う。
 技術というのは休めば追いつかれる。今のところ欧米やアジア系の大手メーカーでも性能を大きく改善するような新材料を見いだせていない。差別化できる材料に関しては、日本メーカーが開発してきている。このところは日本の大きな強みといえる。一方でアプリケーションの開発は日本の弱いところだ。
 - アプリケーションといえば、富士市に完成したばかりの新事業開発棟ではLiBの診断技術を開発します。
 LiBの状態を迅速に把握する診断技術の開発は早くしなければいけない。中・大型LiBのユーザーから最も強く求められているのが診断技術であり、とくに車載用LiBには必須といえる。走行可能距離や電池寿命を正確につかめなかったらユーザーは使いにくい。エコカーの本格量産が始まるまでの2、3年が勝負となるだろう。
 電装品メーカーがLiB診断技術も開発するとの見方があるが、材料と電気の両方が分かっていなければ開発はできない。幸い当社には測定技術のリソースもあり、基本技術を自ら開発できる。
 - 本格的に量産が始まれば、EVは売れるでしょうか。
 まちがいなく売れるでしょうね。走行距離に制限があるといっても、普段の利用には十分間に合う。それに販売店は集客のため“充電スタンド”を設け、タダで利用できるようにするでしょう。そうすると、EVユーザーはガソリン代も電気代も払わずに車を使えることになる。意外なポイントは宅配便の集配所で、これは荷物を配達しやすい場所にあるだけに充電スタンドには最適地。
 こうやって社会システムが変化していけばEVは普及するし、LiBの価格も大幅に下がっていく。電池材料はコストダウンが大事なところだ。民生用小型LiBは10年かかってやっと当初の10分の1の価格になったが、エコカー向けはもっと短期間にコストダウンが進むと思われる。

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