国際的に関心が高まっている海洋プラスチックごみ問題。とくに漂流中に細かく砕け微小粒子化したマイクロプラスチック(MP)は化学物質を吸着しやすいとされ、有害な物質を吸着したMPを生物が摂取することで生態系全体に影響を及ぼすことが懸念されている。ただMPが生成されるメカニズム、環境中でのMPの挙動などには未解明な部分が多い。
 9月7日、化学業界5団体を中心に「海洋プラスチック問題対応協議会」が発足した。MPをはじめとした廃プラ問題に対し、業界が一丸となって取り組むために設立したもので「情報の整理と発信」「国内動向への対応」「アジアへの働きかけ」、そして「科学的知見の蓄積」の4つを活動の柱とする。
 知見を蓄積するための活動の軸となるのが、人の健康や環境に化学物質が及ぼす影響を解明するために日本化学工業協会が2000年から取り組む研究活動「LRI」。社会や業界の課題解決を主眼に研究テーマを採択しており、今年度の重要課題の一つにMPを設定。MPを介し化学物質が魚類に与える影響を調べる愛媛大学の鑪迫典久教授の研究が採択されている。
 この研究では、化学物質のMPへの吸着およびMPからの溶脱を定量的に評価したうえで、食物連鎖を通じて化学物質の生物間濃縮が起きるかどうか確認する。研究期間は3年間。総合的にMPの環境負荷の程度を明確にし、正確なリスク評価を行うためのデータを揃えていく。
 新たにMPの生成機構解明の取り組みも検討する。データ不足は、研究の中心が海洋学者だったことが理由の一つとされるが、化学業界がプラスチックに関わる知見を提供することで研究の進展が期待される。大学の研究と社会のニーズを結びつけるのもLRIの役割といえる。
 LRIは日米欧の化学工業会が連携して進める活動だが、立ち上げのきっかけの一つとなったのが、いわゆる“環境ホルモン”が人や野生生物の生殖機能障害を引き起こすという仮説を打ち出したサイエンスフィクション「奪われし未来」。現在は冷静な議論が行われているが、1996年に米国で出版された当時は仮説を裏付けるデータがなかったこともあり、社会に与えた衝撃は大きかった。
 ここで問われたことは事実なのか、事実ならどの程度の影響があるのか-。化学業界はネガティブな側面から目をそらすことなく、問題の解を求め研究を続けてきた。LRIは得られた知見を社会に発信し、政策へ橋渡しすることも使命とする。科学的知見に基づき社会全体で議論されることを期待したい。

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