『我々が世の中に生活している第一の目的は、こう云う文明の怪獣を打ち殺して、金も力もない、平民に幾分でも安慰を与えるのにあるだろう』。夏目漱石の短編小説『二百十日』の中で、悪天候で阿蘇登山を途中で断念した2人の青年が再挑戦を決意するときの一節だ。そう思わせる毅然とした姿が阿蘇山にはある▼この作品は、漱石が熊本で英語教師をしていた時の体験をもとに書かれたものだ。赴任する2年前の明治27年8月から翌年まで阿蘇大地震が2度も襲い、同じ時期に阿蘇中岳も大噴火した。それは記憶に新しい2年前より大きな噴火規模だったという。『百年の不平を限りなき碧空に吐き出している』との締めの部分からも噴火活動真っ直中だったことがうかがえる▼熊本地震阿蘇復興祈願の一環として、小説『二百十日』にみる漱石所縁のミニジオツアーと阿蘇火山に関する講演会が今月1日に催された。登山前日に宿泊した内牧温泉や阿蘇神社といった小説に登場する場所を訪れる各コースがあり、漱石ファンにはたまらないだろう▼阿蘇火口立入規制は解除され今年2月から見学可能だが、中岳火口噴火による被害でロープウエーはいまだ運休中。火口までは車かバスか歩きで行くしかない。「ともかくも阿蘇へ登ろう」。漱石の励ましの言葉が聞こえてきそうだ。(18・9・6)

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