本紙の1994年12月26日付1面に「世紀末科学雑感」という随想が掲載された。当時、基礎化学研究所所長であり、日本人最初のノーベル化学賞受賞者である福井謙一博士の文章だ。最近、机の抽斗の整理をしていたら、新聞のコピーと、その直筆原稿が出てきた▼新聞のレイアウトや校正を担う職場にいた頃に、随想欄の編集担当者からあずかったものだ。20字×20行の横組み、B5判の原稿用紙に鉛筆で書かれている。私にとっての「お宝」である。編集者が原稿用紙の余白に新聞掲載日付や博士の役職などを書きこんでいる。これがこの直筆原稿の価値にどう影響するのか素人なので分からない▼驚くのは、用紙4枚半に渡って書かれた原稿にひとつの直しも挿入もないこと。なにかに書いた下書きを清書したのだろうか、それとも頭の中で完全な文章が逐次できあがっていったのか。個人的には、後者であったと思いたい。下書きしてから清書するような時間の余裕があったとは考えにくいし、博士の頭脳をもってすれば、いとも簡単なことだったのではないか▼振り返って我が身。ワープロで文字を入力しながら、削ったり足したり、はたまた組み替えたりと文明の利器におんぶにだっこの有様だ。直筆のコピーを目に見えるところに貼って、励ましと戒めにしなくては。(19・2・20)

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