第一三共が開発する新型コロナウイルスワクチンの全体像が明らかになってきた。同社が開発するのは米ファイザー、米モデルナ製と同じメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン。先行2剤による接種が進む中、第一三共はコロナワクチン臨床試験としては国内最大規模の試験を行い、まず追加接種用ワクチンとしての実用化を急ぐ。独自のルートで原材料を調達し、原料から最終製剤まで自社による一貫したサプライチェーンを確立する。今回のワクチン開発で確立した基盤を生かし、次の感染症流行時には約100日間でワクチン開発を可能にする。

 第一三共は当初、初回免疫(1、2回目接種)用のワクチンとして実用化する計画だったが、追加接種向けの開発を優先する戦略に変更した。未接種者・未感染者を数千人集めて臨床試験を行うのが難しくなり、国内の需要が初回免疫から追加接種にシフトしているためだ。

 日本人5000人以上を登録する追加接種用の臨床試験を1月末から行っている。国内単独で行うコロナワクチン試験としては最大規模だ。初回免疫でファイザー、モデルナ製を接種した日本人を対象に両ワクチンを追加接種した場合と抗体価や安全性を比較する。良好な結果が得られれば、今年中に追加接種用ワクチンとしての承認取得を目指す。今秋以降には4回目接種が始まっている可能性もあるが、4回目以降も対象になるような薬事承認を求めたい考え。

 既承認ワクチンによる接種が進むなか、後発組に求められるのは既存品にない価値だ。第一三共のワクチンは治験結果の詳細が未公表で、ファイザーなどが行った大規模治験も未実施なため治験結果による差別化が現状難しい。同社のコロナワクチン開発を統括する籔田雅之バイオロジクス本部長は、「(mRNAワクチンでは)3番手だが、国産ワクチンとして国民にいち早く届けられるポジションにいることがわれわれの使命だ」と話す。

 重視するのは安全性が高く、日本向けに安定供給できること。mRNAワクチンはさまざまな原材料から作られるが、「安全を第一に考えた」独自性のある原材料を選んでいるという。ワクチンの効果を高めるうえで重要になる脂質材料は、独自に開発しているサプライヤーから優先して調達。第一三共自身も脂質デザインを研究しているため、安全性が高いものを見極める「目利き」が可能だ。

 製造はすべて自社で行う。鋳型DNAを作製する工程までは、日本より規制緩和されているドイツの工場で行う。第一三共バイオテック(埼玉県北本市)の工場で鋳型DNAからmRNAに転写して原薬精製し、脂質ナノ粒子(LNP)に封入して製剤化する。まずは冷蔵庫で長期保存できる液剤として開発する。第一三共バイオテックでは商用生産に対応した設備を準備しており、今年中の実用化に合わせて稼働できるめどが立ってきた。生産能力は未定で、臨床試験で検証している投与量と、バイアルなどの充填能力などによって決まる。

 同社が後発組であってもコロナワクチンの開発を重視するのは、次のパンデミックに備えた基盤を構築する狙いもある。mRNAワクチンは、ウイルスそのものが手元になくても遺伝子配列さえ分かればワクチンを設計できる。この利点などを生かして、次のパンデミック時には100日以内にワクチン・治療薬を実用化できるようにする議論が世界的に行われている。第一三共も「100日は当然目指したい」考えで、日割りでどのように作業を進めていくかシミュレーションする検討を行っている。

 現在は国内に十分なサプライヤーがいないため海外から多くの原材料を調達しているが「次の感染症はオールジャパンで対応できるようにしたい」とも考えており、将来的には他社と製造提携することも検討する。(赤羽環希)

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

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