今年度から5カ年の中期経営計画をスタートした第一三共。抗がん剤市場への本格参入を表明してから5年。独自の抗体薬物複合体(ADC)技術を応用した抗がん剤「エンハーツ」の開発成功で、世界での存在感は一気に高まった。新中計では「がんの第一三共」実現への総仕上げを進めるとともに、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンなど新しい治療手段(モダリティ)の実用化にも挑む。新型コロナワクチンは最短で来年末の実用化を目指す。眞鍋淳社長は「革新的なモダリティの提供者であり続けたい」と話す。

 - 今後の医薬品市場がどうなると見通して新中計などを考えましたか。
 「10年後は『ヘルスケア・アズ・ア・サービス』の時代になっているだろう。さまざまな業種が参入して新しいソリューションが生まれていくなかで、製薬企業ができることは何か。低分子やバイオ医薬、遺伝子治療、核酸など多様なモダリティは当社の強みで競争力を発揮できる。例えば音楽業界はレコードやCDではなくデータとして定額配信する時代になった。それでも、いつの時代にも『作曲家』は必要だ。当社も『医療の作曲家』のように革新的なモダリティの提供者として貢献していくことを考えて、長期ビジョンや中計を決めた」

 - 抗がん剤市場でリーダーになるために、新薬開発以外の取り組みは。
 「バイオマーカー研究は自社でやっているが、抗がん剤とセットになるようなコンパニオン診断薬を単独でやるつもりはない。その分野に特化した外部と提携する。デジタルヘルスとしてはCureAppと外来の抗がん剤治療を支援するモバイルアプリ開発にも取り組んでいる。だがデジタルヘルスを独立した新事業として始めるつもりはない。すでに当社が取り組んでいる治療のモダリティは十分すぎるほどある」

 - ADCの生産投資として2025年までに計3000億円を投じます。
 「25年以降に必要となる新たなADCのための投資だ。工場拡張など自社生産への投資が約3分の2、医薬品製造支援(CMO)など外部委託の費用が3分の1という配分。エンハーツなど先に開発が進んでいる『3ADC』の生産投資は、ほぼ終わっている」

 - 核酸医薬や遺伝子治療などの生産対応は。
 「最初はラボレベルで対応できる。大量生産の準備が必要になったら、これらに対するCMC投資としてさらに数千億円規模は必要になるだろう。現状ではmRNAワクチンの生産立ち上げが最優先だ」

 - 新型コロナウイルスワクチンの開発計画は。
 「年内に第1/2臨床試験(P1/2)の何らかの結果を出したい。P3の規模やデザインなどは当局と協議中だが、先行ワクチンと抗体価が同等以上かを比べる実薬対照非劣性試験になりそうだ。比較するワクチンの種類によってデータが変わる可能性をどう考えるかは今後の課題。数千人規模の治験で海外も入るかもしれない。3回目接種として使われることを想定したブースター接種の治験も並行して行う予定だ。通常の医療用冷蔵庫で保管できる製剤にする」

 - 実用化の目標時期は。
 「最短でも来年末になるだろう。今後の治験結果と当局の判断にかかっている。来年、再来年の供給量については厚生労働省と協議している。国産ワクチンとして数千万人規模を期待されているようだ。少なくとも向こう数年間は政府による買い上げを前提にワクチンを開発、供給していくつもりだ」

 - コロナ以外の感染症やがん治療などでもmRNA医薬・ワクチンを展開していきますか。
 「まずコロナワクチンの開発を成功させ、経験とノウハウを積む。そのうえで季節性インフルエンザなど他の感染症などへの応用も検討したい。コロナでmRNAワクチンの有用性が示され、今ある感染症ワクチンがmRNAベースに切り替わっていくのではないかとみている」

 - 中国など新興国事業は。
 「中国でもエンハーツを筆頭とするADCで事業拡大を図る。現地で外資系最大の事業基盤がある英アストラゼネカ(AZ)と提携してエンハーツや『DS-1062』を商業化していく。彼らのノウハウを吸収しながら、3つ目のADCぐらいからは主体的に抗がん剤事業を展開したい。やはり海外進出は自分たちのオリジナル品がないと伸ばせない。ADCを戦略品にして新興国事業も成長させる」

 - 今後もADCのポテンシャルに期待しますか。
 「収益を支える製品として『3ADC』は30年まで持たないと思う。ペイロードやリンカーを変えるような第二世代のADCは開発していくが、ADC分野だけに骨を埋めるつもりはない。ADCではナンバーワン・カンパニーになれるが、それだけではいずれ駄目になる」(聞き手:赤羽環希、三枝寿一)

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

インタビューの最新記事もっと見る