1926年(大正15年)生まれ92歳のとある男性から、100年にも届こうかという来し方について教えてもらった。老翁は自分の拠って立つ思想の基盤を覆される社会的変革を4回経験したという。1945年の日本帝国、1991年のソビエト連邦、2001年の世界貿易センタービル、そして11年の福島原発それぞれの崩壊だそうだ。体制とその体制を象徴する建造物の4つの崩壊▼後ろ2つの崩壊は、50代半ばの小職も足元を強く揺さぶられたのを覚えている。当たり前の現実が実は空中楼閣であったかのような思いにとらわれた。老翁は4つの崩壊それぞれに短歌を残しているが、その一つ〈始まりのやうにまた終りのやうにWTCビル炎上す〉が暗示的であり重い▼米英仏によるシリア攻撃とその原因となった化学兵器使用の疑惑などの報道に接するにつけ、WTCビルの崩壊はまさしく“なにかの始まりであり、なにかの終わり”であったのだと感じざるを得ない。それは、冷戦終結後のつかの間の安定の終わりであり、テロをはじめとする世界に分散する脅威との闘いの始まりであろう▼老翁は原発崩壊には〈識閾に棲みつきいつも蒼白くメルトダウンしたる原子炉〉と詠んだ。5つめの崩壊はやってくるのか。来るとしたらどんな崩壊か。老翁ならずとも憂いは募る。(18・5・9)

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