近年、欧米を中心に生体外の小型のチップ上にヒトの細胞を培養して臓器モデルを構築する「オーガン・オン・チップ」、単一のチップに複数の組織を組み込んだ「ボディ・オン・チップ」の研究開発が活発化している。これら臓器チップは、薬剤や化学物質の安全性試験や、iPS細胞などを用いることで患者自身に適した医薬品を処方する個別化医療のツールとして将来の応用が期待されている。
 臓器チップは、単一のマイクロ流体チップのなかの培養細胞に肺、肝臓などの機能を発現させることで、生体組織・臓器の生理的な環境や反応を生体外で再現しようとするもの。微細な流路を通じて酸素や栄養素を含む培養液を送りこみ、臓器の種類によっては、電気刺激や伸縮などの物理的な刺激を与えて生体内と似た環境を作り出す。一つのチップで複数の組織機能を発現させたボディ・オン・チップが実用化できれば、組織間相互作用など、より正確に生体内の環境を模倣可能になる。
 これまでも医薬品、化学物質の安全性の評価にはヒトの培養細胞が用いられてきた。ただシャーレの培養細胞は、生体内とは、かけ離れた環境にあり、正確に生体反応を確認することは難しかった。そのため現在の評価方法は動物実験がメインとなっているが、種差の問題や動物愛護上の課題を抱えている。臓器チップは、これらを解決できるブレークスルー技術として大きな期待が掛けられている。
 米国では2012年から、食品医薬品局、国防高等研究計画局、国立衛生研究所が中心となって臓器チップの国家プロジェクトを推進しており、ミネタス社など多くのベンチャー企業が誕生。17年からチップの実用化を目指す5カ年プロジェクトが始まった。欧州では、欧州委員会主導の研究プログラム「ホライズン2020」で研究開発が進んでいる。欧州では13年から化粧品開発で動物実験が全面禁止されたこともあり、動物実験代替法として臓器チップのニーズが高まっている。
 日本はiPS細胞など幹細胞研究でリードするものの、その応用技術の一つである臓器チップでは完全に欧米に後れをとっている。ファンディングにしても、ようやく日本医療研究開発機構(AMED)の事業が今年3月に始まったくらいだ。
 ただ臓器チップの研究開発は培養工学、細胞生物学、医学薬学だけでなく、微細加工や素材技術が欠かせない。AMEDを中心とした産学官のオールジャパン体制のなかで、日本の得意とする「ものづくり」技術を生かせれば巻き返すことは十分に可能だろう。

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