ワクチン接種後の発熱、痛みをケアする市販薬や関連製品が伸びている。5月ごろからドラッグストアなどで解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンの需要が増えた後、厚生労働省が他の解熱鎮痛剤の市販薬も使用可能と発信。メーカーによっては売り上げが2~3割伸びた。一部店頭では品薄、品切れが起こり、メーカーは増産や需給調整に取り組み始めている。ワクチン接種はまだ進行中のため、冷却シートなども含めた副反応の備えとしての関連製品は、今後も需要の伸びが見込まれそうだ。(佐藤尚道、高橋篤志、澤口直)

 今年4月以降に接種が本格化したワクチンの副反応が話題に上りはじめたのと時を同じくして、市販薬の解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェン単味剤の需要が急増した。その後、厚労省のホームページ「新型コロナワクチンQ&A」で、イブプロフェンやロキソプロフェンなどの市販薬も接種後の発熱や痛みなどに使用できると表記されると、市販薬の解熱鎮痛剤全般の需要が拡大した。

 市場調査会社のインテージによると、解熱鎮痛剤の販売額は4月中旬から増加傾向を示し、5月最終週は前年同期比30%増、6月最終週は同57%増、最新の8月第1週は65%増と、上昇傾向にある。日本OTC医薬品協会は需要が増えた状況について、「ワクチン副反応に関する需要と認識している」との見解を示す。

 大正製薬はイブプロフェン配合の「ナロンエースT」、アセトアミノフェン配合の「ナロン錠」、昨年発売した「ロキソプロフェンT液」の3製品の売り上げが増加。「ワクチン接種日も事前に分かるので、副反応を想定して事前に準備する人が増えたのでは」(同社)としている。流通サイドから増産要請を受けており、「設備投資の計画はないが、原薬の調達可能な範囲内で既存プラントでの増産を検討している」。

 第一三共ヘルスケアでも解熱鎮痛剤「ロキソニンS内服薬シリーズ」が好調で、今年4~7月の売り上げは3製品すべてが伸び、ブランド全体では前年同期比20%増と伸長。とくに「職域接種が始まった6~7月は30%増となった」(同社)という。また、「ロキソプロフェンナトリウム水和物の鎮痛効果を高めるサポート成分を配合した高価格帯製品が伸びている」として、生活者が効き目を重視して薬を選んでいる傾向があると分析している。需要増に対しては「流通在庫で需給を調整していく」という。

 ライオンでは「バファリン」シリーズの販売が5月以降伸びている。1~6月における解熱鎮痛剤の売り上げは、前年比約2割増えた。掬川正純社長は「増産体制を敷いており、需要に最大限対応していく」と安定供給に努める方針だ。

 調剤薬局では医療用に処方されているアセトアミノフェンを保険適用外で販売する「零売」制度を利用する動きもある。

 一方、発熱時などに体へ貼り付けて使用する冷却シートも、ワクチン接種が進むにつれ需要が大きく拡大。インテージのデータでは、5月から徐々に販売額が増え始め、7月第2週には前年同時期比2倍に急増し、8月第1週まで同水準で推移している。店舗によっては品切れしているケースもあるようだ。

 額用冷却シートカテゴリーで約6割のシェアを誇る小林製薬は、「熱さまシート」の7月単月の出荷金額が前年比約1・6倍増えた。同社は「ワクチン接種後の発熱対策需要に加え、暑さ対策としての需要もあったと思う」としている。今後、出荷の調整を行いつつ対応していく考えだ。冷却シートは、アース製薬子会社の白元アースやライオンなども販売している。

 副反応に備え、ワクチン接種後にスポーツドリンクを用意する人も増えている。大塚製薬の「ポカリスエット」は、7月の販売数量が前年同月比で56%伸びた。気温や外出率が昨年に比べて高かったことが需要増の主たる要因とみているが、「副反応対策としてポカリスエットの需要があることは、SNS(交流サイト)の書き込みなどで把握している」(広報部)とコメントする。

 インテージによると、7月の飲料市場は全体で同5%増加だった。スポーツドリンクのカテゴリーは同30%増で推移したという。水分補給には経口補水液の活用も注目されており、大塚グループでは大塚製薬工場が「オーエスワン(OS-1)」を展開している。

 また、職域接種や自治体の大規模接種などで使われる米モデルナ製ワクチンは、接種した腕が赤く腫れる「モデルナアー
ム」(遅延型皮膚反応)と呼ばれる副反応も話題になっている。厚生労働省によると、接種後にかゆみや発疹が現れた場合には患部を冷やすだけでなく、抗ヒスタミン剤や軟膏などステロイドの市販薬を塗ることで症状が軽くなるという。こうした対処法を踏まえ、関連製品の需要が今後膨らむ可能性もある。

 首相官邸のデータではワクチンの接種率は1回以上が総人口の52・3%、2回接種完了者は40・7%(8月22日時点)。変異株の広がりで、今後も副反応への不安感は消えそうにない。自宅療養者が増えている現状もあり、市販薬や関連製品の需要は高水準で推移しそうだ。

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