化学物質の安全性に関する研究を長期的に支援する日本化学工業協会の「LRI(長期自主研究)」。社会および化学業界の課題解決を大テーマとした現在のスタイルとなって5年が経過し、6月から6期目となる研究活動がスタートする。12件の研究のうち3件は新規テーマとなるが、毒性メカニズムを考慮した毒性予測手法の開発など、日化協が研究テーマを具体的に明示する方法で募集した。
 LRIは、日米欧の化学工業会が進める研究助成制度。人の健康や環境に化学物質が及ぼす影響の解明を目的に、日本では2000年に始まった。当初は「内分泌かく乱」「発がん」など技術別に研究テーマを募集していたが、10年が経過したのを機に内容見直しに着手。年度から課題別に研究を進める現在のスタイルへと転換している。
 この背景にあるのは10年の間に起きた環境の変化。法規制の面では化学物質のリスク評価に基づく包括的な規制が国内外で導入され、技術面ではITの活用など研究手法の革新が進む。ナノ物質など新規物質の生体内挙動の解明も急務となった。研究を公募する従来のLRIは基礎研究に偏る傾向があり、実用的な成果を得るには課題を明確に示す必要があったという。
 「新規リスク評価手法の開発」「ナノマテリアルを含む新規化学物質の安全性評価」など5つを重点課題に設定し、早期対応が求められる課題として日化協が研究テーマを指定する「指定課題」も新設した。さらに年度は、指定・公募課題に加えて研究の範囲を予め明示する「RfP(提案依頼書)」による募集も実施した。募集テーマはリスク評価の難しい複合ばく露に関する研究とした。
 RfPの狙いは、社会や業界ニーズをより反映した研究を進め成果を還元すること。年度は思い切ってRfPのみで募集を行った。安全性評価の迅速化に不可欠な毒性予測手法など具体的なテーマを示したことは、化学業界が求める成果を得るために有効だが、研究範囲が絞り込まれることで応募件数が減る可能性もある。LRI事務局もこのリスクは考えたというが、研究を加速させるにはこうした仕掛けも重要になる。
 LRIは地味な活動であり、一般には成果の見えにくいものも多い。ただ成果は着実に出ている。その一つが人工知能を用いた化学物質の安全性予測手法開発プロジェクト「AI―SHIPS」。経済産業省が昨年開始したもので、LRIで研究してきた研究者が複数参加、5年で成果を出すという。第6期のテーマだけでなく、LRIを卒業したテーマにも注目したい。

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