「鎌倉アカデミア」という高等教育のための私立学校が鎌倉にあった。「幻の大学」と今でもいわれる。一昨年、映画化もされた。戦後間もない時期に開校したが、財政難のため4年半で廃校に▼いずみたく、鈴木清順、山口瞳など芸術界に多くの人材を輩出した。教授陣の顔ぶれもすこぶる豪華だ。西郷信綱、千田是也、吉野秀雄、高見順、中村光夫、林達夫、吉田健一、藤間勘十郎…▼その教師陣のひとりである吉野秀雄を偲ぶ会「艸心忌」が先週土曜、鎌倉の瑞泉寺で開かれた。吉野は歌壇に屹立する歌人だったが、アカデミアの教え子であり『江分利満氏の華麗な生活』の著者山口瞳の『小説・吉野秀雄先生』によって、より世間に名前が広がった▼鎌倉二階堂の山路を時間をかけて歩いた。鶯や名も知らぬ山鳥の鳴き声、竹の葉の葉擦れ、せせらぎの音。非日常感がどんどん募る。山門の手前に着くと、吉野の歌碑と彼を慕った山崎方代の歌碑がほんの5㍍ほどの距離を置いて立っていた▼<死をいとひ生をもおそれ人間のゆれ定まらぬこころ知るのみ>という吉野の歌に対して、方代の歌は<手の平に豆腐をのせていそいそといつもの角を曲がりて帰る>と対照的である。それにしても、切羽詰まった人生のさなかに、「いそいそと」とは。方代人気のゆえんだろう。(18・7・11)

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