かつて日本の学生運動では、デモ参加者の匿名性を確保するためにヘルメットやタオル、サングラスが着用された。もちろんヘルメットは匿名性のためだけではなく、身の安全や所属団体の明示といった別の意味もあったと聞く▼いまテレビや新聞、ウェブで見る限り、香港のデモではヘルメットをかぶっている人はあまりいないようだ。時代も国も違うから、昔の日本のデモと比べるのはアナクロかもしれないが、「覆面禁止法」が施行されたと聞いて真っ先に思い浮かんだのはヘルメットとタオルだった▼「覆面を禁止する」ことに抗議行動への抑止力があること、それにより自由を制限しようとする者がいるということに今さらながら驚かされた。この法律の名前に接したときに、何やら不思議な感覚にとらわれた人は多かったのではないか▼香港は日本人の旅行先として屈指の人気都市。あの美しい景色と美食の街がこんなことになるとは…そんな感想を持つ人は少なくないと思う。ただ、アヘン戦争以来の歴史を顧みれば、成長路線を直線的に突き進むだけの地域にはなりえない事情を抱えていると言えるだろう▼香港の混乱はさらに広がるのか、いつまで続くのか。覆面を被ったSNSによる情報戦の様相にもなっているという。歴史のうねりは簡単にはおさまりそうにない。(19・10・9)

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