日本海に面する人口約13万人の都市、山形県鶴岡市で、市内の高校生を対象とした新たな教育プログラムが始まっている。慶応大学の先端生命科学研究所(先端研)が行っている「特別研究生制度」である。
 先端研は慶応大学160年の歴史の中で初めて、首都圏以外のキャンパスとして2001年に開設された。コンピューターとバイオテクノロジーを融合した生命科学「統合システムバイオロジー」において世界の最先端を走る。世界で初めて人工クモ糸の開発を手がけたスパイバー、メタボローム解析の受託企業で13年に東証マザーズへ上場を果たしたヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ(HMT)などのベンチャー企業を相次ぎ生んでいる。
 今回の制度は、鶴岡市内の高校生を年間十数人ほど先端研に研究生として受け入れるもの。平日放課後や夏休みに研究所に出入りし、大学生・大学院生など担当スタッフの支援の下、実験機器やコンピューターやデータベースを自由に利用して独自に研究に取り組む。高校生のうちから世界最先端の研究現場に身を置き、自分を磨くことができるというわけだ。研究成果は毎年夏に市内で開催される「高校生バイオサミットin鶴岡」などで発表する。同時に募集している「高校生研究助手」と合わせ、これまでに延べ200人の生徒が同制度を活用し、巣立っていった。
 特別研究制度の応募には①世界的な生命科学者になるという強い意欲②鶴岡市を世界的な学術文化都市にするという高い志を持つこと-だけでなく「受験勉強禁止」という条件が課される。高校での2年間、受験勉強をしないで先端研で研究に没頭し、その成果をアピールすることでAO(アドミッションズ・オフィス)入試で大学受験を突破することが求められる。
 先端研の産みの親であり、開設当初から所長を務めている冨田勝教授は「日本には5教科7科目で高い点数をとる優等生なら、いくらでもいる。われわれが輩出したいのは批判や失敗を恐れず、勇気を持って人と違ったことができる『脱・優等生』(=イノベーター)だ。今の日本には『脱・優等生』が圧倒的に足りない。特別研究生制度によって、自分が興味のあることに没頭し、人と違うことにチャレンジする『脱・優等生』の子どもたちを応援したい」とエールを送る。
 特別研究生として最初に任用された高校生は今、大学院生になっている。数年後に彼らの中から、将来の日本を担う人材が一人でも多く生まれることを強く願う。

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