先ごろ中国で「私は薬神ではない」(原題・我不是薬神)という映画が公開され、大きな反響を呼んでいる。個人商売を手がける中国人男性が、あるきっかけでインド企業の白血病のジェネリック薬(後発薬)を購買代理し、高額な政府正規登録の輸入薬による治療を受けられない人々に廉価なジェネリック薬を広げていく話だ。
 現地メディアなどによれば、ベースになった実話があるという。「江蘇省無錫のある企業経営者の男性が慢性白血病を患った。この男性がインド企業の廉価なジェネリック薬を見つけて購入し、自身の治療に充てたほか、同じ病気で苦しむ患者に購買代理など入手方法を教えていた」というもの。
 中国で政府が正式に認可・登録されていない薬は「偽物」と同じ扱いになる。この男性も偽物薬販売の罪で当局に逮捕された。ただ捜査の過程で利益目的の購入・販売ではないこと、さらに男性を通じてジェネリック薬を使っていた患者の多数が嘆願運動を起こしたことから、不起訴・無罪になったという。
 政府承認の白血病治療薬は、輸入品で年間数十万元の治療費が必要とされる半面、同一効果のジェネリック薬なら数千元ですむ。ただジェネリック薬は政府の正式承認などがないため、個人輸入の偽物薬扱いの製品を使う以外、高額な正式承認の輸入薬を使うしかない。
 映画の公開が大きな反響を呼んだ後、李克強首相が異例のコメントを発表し「抗がん剤の価格見直しと供給拡大」に関し政府当局へ要求を提出。これにより改めて高額な輸入抗がん剤の問題が全国民に注目されることとなった。
 中国国家食品薬品監督管理総局(CFDA)は、新薬販売許可の審査期間など「ドラッグ・ラグ」を短縮する政策を発表。5月から抗がん剤など輸入されている一部医薬品の関税撤廃も始まった。加えて保険適用外だった抗がん剤への保険適用の検討も表明するなど、中国政府は抗がん剤に関する政策の充実を加速している。
 いまや中国は、米国に次ぐ世界第2位の医薬品市場を持つ国へと急速に成長した。米国の調査会社によれば、その市場規模は約1200億ドル(約13兆円)ともいわれている。そのなかで今回の抗がん剤に関する輸入関税撤廃、ドラッグ・ラグ短縮といった政府の取り組みは、大いに注目される動きといえる。1本の映画が国を動かしたと言えば大げさかもしれないが、その政策判断と具体的な取り組みにいたるスピードは「政治」という意味で評価に値するのではないか。

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