IoT(モノのインターネット)が広がるなか、長く化学産業の一端を担ってきた無機薬品工業の存在感が増している。IoTでは、さまざまな種類のセンサーから収集された膨大な情報をネット経由で自由にやり取りし、データ化して集積・分析する。そのセンサーに用いる電子部品・デバイスの基礎原料に、多くの無機薬品が使用されているためだ。自動車においてもIoT技術を活用した「コネクテッドカー」の開発が進んでいる。今後も各種デバイスの基礎原料となる無機薬品のニーズが、ますます高まっていくと予想される。
 無機薬品は、無機化合物を主体とする化学製品のうち硫酸、アンモニア系製品、化学肥料、ソーダ工業製品、カーバイドなど主要製品を除いた多様な製品群を指す。無機化学品工業は、明治から戦後の復興期にかけて硫酸、肥料、ソーダ工業などとともに日本の化学産業を牽引してきたが、石油化学工業の勃興とともに、かつてのような存在感はなくなっていった。
 だがIoTの進展が大きな社会変革をもたらそうとするなか無機薬品の存在感が高まっており、再び「無機の時代」ともいえる状況が生まれつつある。
 具体的には、自動車のIoT化、ADAS(先進運転支援システム)などによる自動運転の高度化、EV(電気自動車)化が進むなか、各種センサーのほかに、電圧や電流をコントロールする役割を担う積層セラミックコンデンサー(MLCC)の需要が拡大している。MLCCの材料には無機薬品の一つであるチタン酸バリウムが使用されている。EVの基幹となるリチウムイオン2次電池(LiB)向け部材にも、多くの無機薬品が添加剤や触媒として活用されようとしている。
 無機薬品は少量多品種でかつ各種部材の原料となる基礎素材であるために、一般にはほとんど馴染みのない製品ばかりだ。また戦前からあるような息の長い製品群で占められている。ただ多くの無機薬品は、昔と同じ用途で使われてきたわけではない。微細化や微粒子化などの高付加価値化によって用途を広げたり、あるいは大きく変えたりすることで、新たな需要を掘り起こして生き残ってきた。それが無機薬品の特徴であり、強みでもある。
 無機薬品の業界団体である日本無機薬品協会が今年、創立70周年を迎えた。無機薬品はIoT社会の到来によりニーズが大きく高まっている。今後も無機薬品独自の強みを生かすことで、先端産業を支える「黒子」としての役割を末長く発揮することを強く望みたい。

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