富士フイルムが取り組んでいたiPS細胞由来の他家CAR-T(キメラ抗原受容体発現T細胞)療法・開発プロジェクトの提携先がようやく決まった。独バイエルが、富士フイルムの米子会社であるフジフイルム・セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(FCDI)と米ベンチャーキャピタルが設立した新会社に出資参画。総額2億5000万-を想定する開発費の9割弱を拠出する。富士フイルムなどは2~3年内の臨床試験開始を目指すという。
 富士フイルムは、2016年末ごろからiPS細胞由来他家CAR-Tの開発プロジェクトを進めていると明らかにし、製薬企業やバイオベンチャーと共同開発に向けた協業を模索していた。FCDIが有するiPS細胞からT細胞を誘導する技術と、製薬企業やベンチャーが持つ、がん細胞を特異的に認識するキメラ抗原受容体(CAR)技術を組み合わせて開発することを想定していた。
 患者自身の細胞を用いる自家CAR-Tは、患者ごとにオーダーメイドで細胞を製造しなくてはならず高額な治療費が大きな課題。ロットを作製して品質管理することができず、毎回品質試験が必要になり、どうしてもコストがかさんでしまう。
 一方、富士フイルムのiPS細胞由来他家CAR-Tは、健常人ドナーの細胞からiPS細胞を作製し、そのiPS細胞を大量に増やしてT細胞に分化・誘導させる仕組み。同一ロットで多数患者に投与でき、コストを大幅に低減できる可能性がある。iPS細胞段階でCARを遺伝子導入、ベクターが少量ですむことも低コスト化につながる。
 既存の他家CAR-Tのもう一つの課題として、血液がんでは有効性を示すものの、固形がんでは効果を示さないということが挙げられる。これは固形がんに特異性を持った標的抗原が見つかっていないということもあるが、CAR-T細胞自体が長期間体内に生存できていないことが要因とされる。
 より安価なiPS細胞由来他家CAR-Tは、この課題も解決できる可能性がある。CAR-Tにより短期的に腫瘍を攻撃して炎症を起こさせ、その後に続く抗腫瘍免疫反応の増強は他の免疫治療薬を用いるーという治療戦略が可能になるからだ。またiPS細胞には造腫瘍性リスクが付きまとう。そのためCAT-T自体は、長期間体内に残らない方が安全性の面でも都合が良いといえるだろう。
 富士フイルムのプロジェクトで既存のCAR-Tの課題が解決され、世界のがん治療を大きく変えることを期待したい。

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