成長市場を取り込むため、各社がM&A(合併・買収)を活発化している。買い手側企業は、自社の成長に欠かせないとして他社の事業を取り込む。売り手側は、自社の戦略領域から外れたり、業績が悪化している事業を切り離すのが一般的だ。事業に関わる従業員は望まれて新天地に行くのであり、新たな発見も得られよう。常に求められるのは前向きな姿勢だ。

 上場企業が2021年に募った希望退職者の数は1万5892人に上った。多くはコロナ禍の影響を受けたアパレルや観光業などだが、44%は黒字企業だったという。ポートフォリオの転換のため、いわゆる「黒字リストラ」を実施したものだ。

 事業買収などによって図らずも会社を移るケースも増えている。日立製作所の画像診断関連事業を買収した富士フイルム。後藤禎一社長は「当社はヘルスケアに舵を切っており、同領域にスポットライトが当たっている」と話す。期待をかける事業とあってモチベーションは高く、早速シナジーが生まれている。

 一方、富士フイルムグループだったジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)は、帝人の傘下に入った。整形外科分野を得意とする帝人にとって、再生医療を手がけるJ-TECの価値は高い。

 祖業のエラストマー事業を売却したJSR。半導体、ヘルスケアにポートフォリオを集中するため、大きな決断を下した。買収するENEOSが力を注ぐのは素材分野。ガソリン需要の減少や脱炭素の流れがあるなか、JSRのエラストマー事業を組み込み、省燃費タイヤやLiB用バインダーの開発を加速する。

 海外でも大胆なポートフォリオ改革が進む。デュポンは半導体分野にシフトし、基板材料メーカーの米ロジャースを買収する一方、食品原料部門を米IFFに売却した。デュポン(日本法人)の大羽隆元社長は、こうしたケースでは、いつも同じメッセージを従業員に伝えているという。「ベストオーナーの下で事業が運営されるべき」と。香料大手のIFFの下、デュポンの食品原料部門が、より輝くことが期待される。

 今年、メルクエレクトロニクスの社長に就任した永田勝氏は、元々は独メルクが買収した米ヴェルサムマテリアルズの出身だ。いまだに株式の70%を創業者一族が保有するメルクは、長期視点のビジネスが真骨頂。短期間で結果が求められる米企業から移籍して、永田社長は多くを学んだという。混沌とした時代、変化にうまく順応してこそ、会社も個人も成長が得られるということだろう。

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