「人新世」という言葉を最近よく見かける。ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェン氏によって考案された新しい時代区分だ。人類の活動の痕跡が地球の表面を覆い尽くした年代という意味だそうである。現在である「完新世」の次の地質時代を表しているが、地質学の国際組織に公式に認められた時代区分ではない▼「SDGsは現代版『大衆のアヘン』である」などと論じベストセラーになっている『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著)も人新世がタイトルに含まれている。その中で斎藤氏は、人新世の環境危機によって明らかになりつつあるのは、「皮肉なことに、まさに経済成長が、人類の繁栄の基盤を切り崩しつつあるという事実である」と指摘している▼折しも、コンクリートやプラスチックなど地球上で人間が作ったあらゆるものの総重量(人工物量)が、地球上の生物の総重量(生物量)を超えようとしていると、イスラエルの研究チームが英科学誌『ネイチャー』に発表した。「人新世」区分を裏付けるような論文だ。研究チームは産業や生態学のデータから、1900年以降の地球上の人工物量と生物量の変化を推計した。20世紀初頭の人工物量は生物量のわずか3%程度だったという▼2021年からの10年、そして20年、30年。まさに人類の“チャレンジ”が問われる。(21・1・6)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る