経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)。2022年3月期決算は最終損失が80億円で、8期連続の赤字となった。ただ赤字幅は着実に縮小している。19年3月期に2396億円へ膨らんだが、最終黒字が見込める段階まで回復した。1000億円超を支援し、経営危機を救ったのは、いちごアセットマネジメントのスコット・キャロン社長だ。自身がJDIの会長に就任し「高い技術力が魅力。身の丈に合った経営を行えば必ず成功できる」と語った通り、なりふり構わない構造改革によってJDIは息を吹き返そうとしている。

 12年、産業革新機構の主導によりソニー、東芝、日立のディスプレイ部門が統合して「日の丸液晶」のJDIが誕生した。大型の液晶パネルに比べ、スマートフォン向け中小型液晶パネルは高精細ニーズが強く、日本の高い技術力が生かせるはずだった。だが有機ELパネルの登場で風向きは変わった。瞬く間に液晶パネルは競争力を失い、JDIは膨大な生産能力という負の遺産を抱えてしまった。

 固定費削減のため白山工場(石川県白山市)をシャープなどに売却し、台湾の後工程工場は同国のウィストロングループに売った。今年に入ると累積損失を解消し、中小企業扱いにより節税効果を得るために約2152億円から1億円に減資。国内4工場の一つである東浦工場(愛知県東浦町)の閉鎖も決めた。

 今年度から始まる5カ年経営計画では、23年度に7年ぶりの営業黒字を目指す。最終26年度の営業利益は833億円(利益率18%)を目標としV字回復を描く。

 「固定費削減から技術に基づいた成長戦略へ」。キャロン会長・CEOは「世界初・世界一の技術による脱過当競争」を打ち出す。世界初となるマスクレス蒸着かつフォトリソグラフィーの有機ELパネル、シェア約4割を握るVR(仮想現実)向けの液晶パネルなどが成長ドライバーとなる。スマホ向け液晶パネルの売上高比率は、26年度には5%を切るまで下げて「脱スマホ」を仕上げる計画だ。

 祖業のエラストマー事業を売却したJSRのエリック・ジョンソンCEOや、石油化学・炭素事業の分離など大胆な構造改革を進める三菱ケミカルホールディングスのジョンマーク・ギルソン社長。辣腕とされる外国人トップのなかでも、JDIのキャロン会長兼CEOは自ら茨の道を選んだ経営者だ。いちごアセットマネジメントの社名は「一期一会」が由来。ともすれば消えゆく運命だった日本のディスプレイ技術が、外国人経営者の手腕によって再び脚光を浴びる日を待ちたい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

セミナーイベント情報はこちら

社説の最新記事もっと見る