見ているその最中に、この映像は生涯忘れることはないだろうと思う事件や事故というのが誰にでもあるはずだ。タリバンが政権を掌握したアフガニスタンから国外への脱出を求める市民が空港に殺到、離陸する米軍用機に群衆がしがみついた。SNS上では飛行中の機体から人影のようなものが落下する映像が拡散したという▼ベトナム戦争で南ベトナムから米軍が撤退する際、米軍機に泣き叫んですがりつく南ベトナム市民の姿を思い出したという人も多かったようだ。そのとき小職は小学5年くらいのはずだが、こちらの映像は記憶になく、申し訳ない気持ちになる▼芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』を連想した人も多かったと思う。地獄に落ちた盗賊が、お釈迦様がたらした蜘蛛の糸をたどってのぼっていく途中、下を見ると大勢の者たちが上がってくるので、「この蜘蛛の糸はおれのものだ」と叫ぶと、糸が切れて再び地獄に落ちる▼アフガン、ベトナムの人たちはもちろん盗賊ではなく、地獄に落ちるような人でもない。自分が助かるために何かにすがる、一縷の望みをかけるという要素だけが似ていて、連想してしまったのだろう▼先週、1回目のワクチン接種を受けたが、その予約プロセスにおける目に見えない熾烈な競争の最中にも、蜘蛛の糸が頭に浮かんで仕方がなかった。(21・8・25)

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