【上海=但田洋平】中国の半導体産業が活況に沸いている。自動車など苦戦する他産業を尻目に、年初から高稼働を維持。日系化学企業も関連素材や設備販売が好調で、単月ベースで過去最高益を記録する企業も出ている。第2四半期(4~6月)までは陰る気配をみせないが、下期以降となると雲行きもあやしくなる。技術者の渡航規制や輸出市場の鈍化に加え、先鋭化する米中対立などが先行きに暗い影を落とし始めた。

 半導体産業の育成を図る政府の後押しも受け、メモリー、ロジックともに中国のほぼすべての半導体工場は、新型コロナウイルスが蔓延した1月以降も休むことなく高水準の操業を続けてきた。各工場は自動化が進み、クリーンルームを止めることによる膨大な電力ロスの発生を避ける狙いもある。「武漢の長江存儲科技(YMTC)こそ、人手や材料不足で一時稼働を落とした」(日系化学)局面もあったが、今年1~3月の中国の集積回路(半導体チップ)の生産量は前年比16%増の高い伸びを確保した。

 パソコンなどデジタル機器の中核部品であり、制御や演算処理を行うロジック半導体は、ファウンドリー(受託生産)の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC、南京や上海)や中国最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC、上海や北京など)がほぼフル稼働を継続。メモリーもサムスン電子(西安)、SKハイニックス(無錫)など外資が市場を牽引するなか、「紫光集団傘下のYMTCは武漢で順調に設備を立ち上げ、長鑫存儲技術(CXMT、合肥)も負けじと稼働を落としていない」(東京エレクトロン)。

テレワーク増で特需

 半導体市場は2019年、データセンターのサーバーや、仮想通貨の採掘(マイニング)の需要減退、第5世代通信(5G)の普及の遅れから需要が失速し、年後半にかけて徐々に持ち直してきた経緯がある。20年は新型コロナの影響で出鼻をくじかれた格好だが、スマートフォン向けこそ伸び悩むものの、監視カメラや非接触型センサー、身分証明のICカードなどの需要は引き続き堅調に推移。5Gの普及にともなう通信量の拡大を見据えてデータセンター需要が戻っており、ここに、テレワークが拡大するなかでのパソコンやタブレットPCの特需も加わった。

素材各社もフル稼働

 旺盛な需要を受け、素材メーカーの関連事業の業績も絶好調だ。半導体製造時に回路形成面を保護する「イクロステープ」で世界トップクラスのシェアを誇る三井化学。足元でスマホやタブレットなどハイエンドゾーンの販売が好調だ。JSRはYMTCやSMIC、インテルなどからレジストの受注が引きも切らない。
 トクヤマも嘉興工場(浙江省)の薬剤などのフル生産を継続し、第2四半期も昨年を上回る収益を見込む。昭和電工はシリコンウエハーの表面に形成する酸化膜のエッチングに使う高純度オクタフルオロシクロブタン(C4F8)の需要が堅調で、春節期間中も上海工場を休まず稼働させてYMTCから表彰された。
 バルカーは洗浄液を保管するタンクや設備関連のシール剤の販売が例年を上回る伸びで推移している。中国のフッ素材料大手の巨化集団も「フッ化水素や硫酸などのウエットケミカル、関連ガスの需要が旺盛で生産が追いつかない。早期に能力増強したい」(同社)と鼻息を荒くしている。

下期は不透明感強まる 再燃する米中対立 向け先で明暗も

 足元で好調を維持する半導体市場。「第2四半期も衰える気配がない」(総合商社)との声が大勢だが、下期以降は不確定要素も強まる。

 まずは、海外から中国への渡航規制措置にともない、「日米製の半導体製造装置の導入が大幅に遅れている」(設備メーカー)こと。例えば、武漢のYMTCは現在、第1期1系列(20K/月=1Kは1000枚)を始動し、年末までに45~50Kへの能増を計画している。ただ、設備の立ち上げに不可欠な日米台のエンジニアが不足。関連メーカーは「顧客から早期のエンジニアの手配を要請されているが、台湾人の担当者が武漢に行きたがらず、特別手当てを出すか検討している」と頭を悩ます。国策会社のCXMTも同様に40Kまでの倍増プロジェクトが停滞中。各プロジェクトの大幅な遅れは「業績計画を大きく狂わせる」(日系素材大手)ことになる。

 事態をより深刻にしそうなのが、再燃し始めた米中対立だ。新型コロナの起源説などを巡って火花を散らし、米国は中国向けの半導体材料の輸出規制もちらつかせる。「米国工場からの薬剤の中国への供給に支障が出る可能性がある」(デュポン)といった可能性が取り沙汰され始めた。

 下期は向け先によって明暗も分かれそうだ。テレワークの常態化、5Gの普及による通信量の急速な拡大に対応すべく、GAFAなどIT大手は今後、投資を厚くする構え。年後半はデータセンターのサーバー向けのメモリーやCPU(中央演算処理装置)などの需要が底堅く推移するとの見方が強い。一定のスペックが必要なサーバー向けでは台湾のTSMCに一日の長があり、「SMICは劣勢を強いられるとみている」(業界筋)。

 他方、不透明なのはコンシューマー向け。スマホやPC、テレビ向けの半導体需要は欧米などの輸出市場に左右され、今年は年末のクリスマス商戦が低調に推移するとの観測もくすぶる。足元で日系化学企業の収益を下支えしている半導体関連事業だが、今後は客先の動向が業績に大きく響きそうだ。(随時掲載)

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