投資家などから集めた資金を元手に研究開発を行うバイオベンチャーにとって経済危機は死活問題だ。一方、ベンチャーならではの機動性を生かし、新興感染症への対抗手段をいち早くアピールする絶好の機会でもある。みずほ証券エクイティ調査部の野村広之進シニアアナリストにバイオベンチャーへの影響などを聞いた。

■新型コロナウイルスのバイオベンチャーへの影響について教えてください。

 「約2・5兆円あった日本のバイオセクターの時価総額合計は新型コロナウイルスの発生後、2兆円を下回る規模に縮小した。時価総額が合計で数千億円規模だったリーマンショック前に比べてプレイヤーが増え資金も回り始めた矢先で、マイナスインパクトが大きく現われた」

■投資家がバイオ以外の産業に関心を移す懸念はありませんか。

 「すでにそうなりつつある。株価のボラティリティーが高まり、投資家はリスクを取りたがらない。バイオベンチャーにとっては逆風だ。1~3月はペルセウスプロテオミクスとステムセル研究所の2社が上場をとりやめた。去年から上場時にも一定の機関投資家が株式を保有することが求められている影響も重なり、醸成されつつあったエコシステムが揺らぎかねない」

■事業活動ではどのような影響がでていますか。

 「提携先の製薬会社を通じた医薬品の販売の減少、臨床試験の遅れといったマイナスの影響を受けそうだが、医療ニーズの高い新薬開発への影響は少ないだろう」

 「臨床検査分野では新型コロナの検査キットの開発・販売はプラス影響だが、大学や研究機関が閉鎖しているのでその他の試薬が売れないというマイナス面も考えられる」

■ベンチャーのアンジェスがいち早くワクチン開発を表明しました。

 「開発・製造にかかる時間が少ないとみられ早期開発には向くかもしれない。ただRNAやDNAを使ったワクチンの承認実績は世界でもなく、開発進捗を注視する必要がある。本質的に有効なワクチンであればベンチャー企業でも世界に貢献できるはずだ」

■新型コロナで注目された国内外のベンチャーはどう発展するでしょう。

 「有効性の高いワクチンを開発できれば、ベンチャー企業でも一躍、世界のトップランナーになれる可能性がある。かつてベンチャーだった米アムジェンや米ギリアド・サイエンシズが大手になったように、製薬大手へと躍進する日本発ベンチャーが誕生すれば日本市場のモメンタムは大きく変わる」

■世界経済の回復に治療薬やワクチンの開発成功は欠かせないのでしょうか。

 「人口の5~6割が感染して『集団免疫』を獲得する段階になるまでに日本は約2年、欧米は5~9年かかるとの予想もある。それほどの長い期間の封じ込めは困難であり、治療薬やワクチンは必須。ただ、開発には一定の時間を要し、限られた医療リソースを最適化するためにも、無症状感染者の抗体検査なども並行して進めるべきだ」

■ポスト・コロナのバイオベンチャーのビジネスモデルはどう変わりますか。

 「医療ニーズの高いものを開発するという基本姿勢は変わらない。一方、新型コロナ問題でヘルスケアには多大な費用が必要なことが改めて明確になった。これまで、災害時以外ではトリアージという概念は少なかったが、平時でも限られる医療ソースをどこに配分するのか、高額医療を含めた医療をだれにどう使うのか、どう医療財政や医療提供体制を支えるのかといった議論は一層強まっていくだろう」(聞き手=赤羽環希、三枝寿一)

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