新型コロナウイルスの感染拡大が石油化学製品の需要に影を落としている。世界的なヒトやモノの移動制限によって消費全般に大きな打撃を与え、素材にも波及する。コロナショックが国内の石化業界に与える影響を英調査会社IHSマークイットの米山昌宏シニアディレクターに聞いた。

■猛威を振るう新型コロナ・ウイルスが石油化学製品に与える影響をどのようにみていますか。

 「国内の主要な石油化学製品の生産実績をみると、低密度ポリエチレンなど4大樹脂の2020年1~2月累計の国内出荷は前年同期割れ。石化製品の内需減の影響として、消費マインドが冷え込んで最終製品の需要が落ち込んでいる、自動車や家電などの需要先で部品のサプライチェーンが混乱しているなど、いくつかの要因が考えられる」

 「IHSマークイットは新型コロナの感染拡大により、20年の世界経済の成長率がマイナス2・7%に落ち込むと予測する。自動車生産台数も20年第3四半期までに新型コロナが収束して経済が上向くことを前提に19年比25~30%減るとみている。今後は日本でも新型コロナの影響がより色濃く出る可能性がある」

 「国内では緊急事態宣言後も多くの工場が操業を継続しているが、自動車工場は生産停止が続く。また、プラスチック需要全体の約4割を占める包装材料も外出自粛要請を受けてテークアウト向けは増えるが、飲食店やデパートなどの臨時休業や営業時間の短縮が需要の押し下げ要因になる。建設業界で広がる工事中止の影響もあるだろう」

■新型コロナが石化需要をどの程度押し下げるでしょうか。

 「個人的には世界需要の1割、つまり1カ月分強に相当する需要が失われたとしても不思議ではないと考えている。過去にはリーマン・ショックも実体経済に大きな影響を与えたが、疫病がここまでまん延し、世界に影響を与える事態は過去に経験がない」

 「そして今回の事態が難しいのは、いつ収束するか分からないことだ。いったん収束するとこれまでの反動で消費が一気に増えることが想定される一方で、例えば消費しないことに慣れるなど、消費者のマインドががらりと変わる可能性もある。それによって『ポスト・コロナ』の石化需要も違ってくる」

■コロナ・ショックが石化業界に変容を促す可能性はありますか。

 「過去の例に照らしても、業界の再編・合併は不況の時に起こる。例えば日本はエチレン換算で生産と内需に100万トン以上の開きがあり、年200万トン以上の石化製品が輸出されている。体質改善という意味で、リストラクチャリング(事業の再構築)の議論が加速するかもしれない」

 「海外に目を転じると、電気自動車(EV)などの普及にともなってガソリン需要が先細りする長期見通しのなかで、石油精製の石化シフトが進んでいる。代表例が「クルードオイル・トゥ・ケミカル(COTC、原油から石化製品の直接生産)」。燃料油を減らし石化製品が大量生産できる技術で、すでに中国勢を中心に計画が進行中。国内でもコロナ・ショックの危機感が共有されることで、競争力強化に向けて石油精製、石化のさらなるインテグレーションが必要という論調が出てもおかしくないだろう」

■危機の時こそ企業の対応力が問われます。

 「こうした事態が永遠に続く訳ではない。不確実性に対処する方策を考えなければならない局面だが、新型コロナの収束後を見据えることも大事だ。日本の化学企業はスペシャリティ分野で物凄く力が強い。ヘルスケアやエネルギーといった成長分野の事業を拡大するうえでも、長期的な視点で投資や人材育成に取り組む必要があり、それこそが将来の底力となる」(聞き手=小林徹也、松井遙心、石川亮)

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