「2050年までにカーボンニュートラル実現」という政府方針を受けて、県や市など自治体単位で、工場地帯や産業集積地域、公共施設におけるCO2排出量削減、あるいはCO2の資源利用によって「実質ゼロ」を目指す動きが相次いでいる。そうしたなかで、国内トップの工業生産出荷額を持ち、世界的にも稀な巨大自動車産業が集積する愛知県で、脱炭素社会に向けた産官学連携の「あいちゼロカーボン推進協議会」が発足する見通しとなった。

 愛知県の大村秀章知事ほか、名古屋大学、愛知工業大学、中部産業連盟のトップ、合わせて4名が同協議会の発起人となって、今春の設立を目指して動き始めた。新型コロナウイルスの流行が世界的に長引くなかで、中部経済圏は昨夏から、自動車産業を中心にいち早く復調を見せている。現在も米国、中国などで市場拡大が続く自動車産業に連動するかたちで堅調を継いでいる。

 世界が経済活動とコロナ対策の両立を目指すなか、中長期的にはSDGs(持続可能な開発目標)達成や、環境技術を土台にしたカーボンニュートラル社会の実現、脱炭素に対応した産業構造への変革が求められる。とくに脱炭素に関する多様な技術・ノウハウは、5G(第5世代通信)など情報通信の変革に匹敵するものであり「(その社会実装によって)社会やエネルギー産業、鉄鋼、化学など従来の産業構造が一変する」(愛知県の産業政策担当者)と言われるほど。

 中部経済圏は、自動車産業チェーンに加えて、伝統的にファインセラミックス産業が強いほか、岐阜県や三重県の一部に樹脂加工産業、金属加工関連産業が集積している。大手メーカーが立地するだけでなく、大手の必要とする部材や材料、部品加工などで「匠」の技を持つ中堅や中小企業が連なっており、連綿とした産業チェーンを構成していることも、この地域の大きな特徴だ。

 ある意味では、国内の工業生産全体を含め、日本経済を支えている地域といっても過言ではない。その地域が産学官連携で脱炭素、ゼロカーボンを目指して立ち上がった。具体的に取り組みが進めば、日本の産業界全体の脱炭素に向けた牽引力の一つとなるだろう。

 先ごろも東邦ガスが、LNG(液化天然ガス)未利用冷熱を使って大気中のCO2回収を目指す新プロジェクトを始動させた。トヨタ自動車も、2年前から運転実証中の水素燃料電池で、地域における再生エネルギー関連の新プロジェクトが多数控えている。愛知県や中部経済圏の取り組みに、期待が増すばかりだ。

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