2020年の国内の繊維需要は、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響もあり、大幅な減少となった。日本化学繊維協会がまとめた「内外の化繊工業の動向」によると、衣料品の売り上げは百貨店が前年比31・1%減、量販店が同16・9%減と「末端の衣料需要はかつてないほど大きく落ち込んだ」。理由として緊急事態宣言にともなう小売店の臨時休業に加え、19年10月の消費増税や暖冬などに起因する販売不振を挙げた。

 突発的なパンデミックは不可避な事象といえるが「暖冬」を不振の原因にするのは企業側の言い訳に過ぎないのではないだろうか。アパレルメーカーはこれまで、単価の低い春夏物を秋冬の重衣料で補填するビジネススタイルが一般的だった。ただ地球温暖化が叫ばれて久しい現状にあって、何年にもわたり天候を理由に掲げるのは、企業努力が足りない証拠だ。

 もちろん、この状況にアパレル側も手をこまぬいているだけではない。ブランド力を高めることで、通年でのアイテム販売に成功したアウトドアメーカーが存在する。飲食業などに進出し、多軸化展開を推進するアパレルメーカーもある。進む道は違えども企業側の努力の賜物といえるだろう。

 また近年、とくに注目を集めるのがオーダーメイドの販売形態だ。例えばオーダースーツSADA(東京都千代田区)は、20年7月期決算でコロナ禍にもかかわらず過去最高の売上高を更新した。大手他社はメンズ衣料店の店舗数縮小や別業態に力を入れる傾向にあるが、佐田展隆社長は「どこよりも費用対効果の良いオーダースーツを提供する」ことに強いこだわりを見せる。「CAD・CAMなどを使った自動化・機械化の技術を駆使する」ことなどを通じ、今後も「工場直販ならではの、他社に真似できないリーズナブルな価格を実現する」としている。

 セーレンも、独自のデジタルプロダクションシステム「ビスコテックス」を活用したパーソナルオーダーシステムの拡販に力を注いでいる。同システムはシルエットや色、柄、サイズなどの組み合わせにより、47万通りのバリエーションから選択が可能。1枚のオリジナルアイテムに仕上げられる。取り組み先からの引き合いも強く、今後導入店舗の拡充も見込まれる。一層の注目を集めそうだ。

 衣料品の大量破棄が問題視されるなか、オーダーシステムは既存の販売システムとは対極に位置し、いわば環境にやさしい生産・販売システムといえる。環境配慮型素材などと組み合わせ、衣料品販売のさらなるエコ化と、その普及に期待したい。

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