一日も早く新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込み、落ち着いた日常生活や経済活動を取り戻そうと世界各国で大規模な財政政策、規制措置が採られている。だが各国政府が打ち出す各種の規制によって世界経済の悪化、金融市場の混乱を招いていることも事実だ。保護主義、自国第一主義の蔓延は、感染拡大収束後に世界経済の分断を招きかねない。とりわけ米中は相互批判を改め、国際協調のリーダーシップを発揮すべきだ。

 各国が感染拡大防止のため入国規制するのは理解できる。ただ事前協議なしの事例が散見された。米国は中国や欧州からの入国を突然規制し、中国や欧州連合(EU)は強く反発した。日本の渡航規制に対する韓国の報復措置は記憶に新しい。

 目に余るのが貿易摩擦を継続する米中だ。米国は首脳クラスがあえて「中国ウイルス」との言葉を用い、中国の責任を批判して習近平政権の感情を逆なでした。中国では高官が「ウイルスは米国が持ち込んだ可能性ある」と指摘し、ジャーナリスト追放など対抗策を講じた。米国は「世界保健機関(WHO)が中国に寄りすぎ」と避難。矛先は国際機関にも向けられた。

 各国の軋轢は大きくなるばかりだ。グローバル景気がさらに悪化すれば、各国が自国産業保護のため関税を上乗せしたり、制裁関税の応酬へと発展する危険性も指摘されている。ポストコロナの世界を想像すると、これまで以上に自国第一主義や強権政治がまかり通ることが危惧される。サプライチェーンの見直しは必要だが、グローバルな多国間貿易の収縮は、その恩恵にあずかってきた日本経済にとっても大きな痛手となる。

 現在は、何よりも医療体制や検査体制の強化、治療薬やワクチン開発などの分野で国際協調が急務だ。感染者の増加とともに各国には多数の症例が蓄積されている。各国の医師や研究者が協力して症例を分析し、有効な治療方針を確立したい。

 中国は新型コロナに関し、蓄積した情報やノウハウを世界により広く開示して欲しい。感染封じ込めには徹底した隔離政策なども奏功したのだろうが、初めて感染拡大が確認された武漢市の経験や、大量の感染者から得られた膨大なデータは治療法や薬の開発の重要なヒントだ。こうした分野で主導的な役割を果たすことが、世界から見直される最短の道だろう。

 米中は覇権争いに熱を上げるている時ではない。今こそ新型コロナ対策を巡って手を携え、世界を先導すべきだ。ポストコロナの世界の分断を防ぐためにも、各国の国際協調の姿勢が問われている。

試読・購読は下記をクリック

新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)

新型コロナウイルス関連記事一覧へ

社説の最新記事もっと見る