国土交通省はこのほど、かねて検討を進めてきた「令和時代の内航海運のあり方」についての中間とりまとめを公表した。今後の課題として、若手船員の確保・定着はもちろんのこと、荷主との取引環境の適正化による市場環境の整備、運航・経営効率化、新技術の活用による生産性の向上などを挙げた。わが国における「物流の大動脈」としての役割を中長期的に果たしていくには、変革へ向けた経営陣の決断力が重要となる。

 内航海運は、トンキロベースで国内貨物輸送の4割、産業基礎物資輸送の8割を担う、わが国の「物流の大動脈」。長距離トラックドライバー不足が深刻化するなか、モーダルシフトの受け皿としても期待は大きい。災害発生時の陸上の代替輸送や緊急物資輸送などでも重要な役割を担う。

 ただ内航海運業界は、さまざまな課題を抱えている。とくに船舶と船員の2つの高齢化問題は、いぜん解消されていない。抜本的な対策を打たなければ、中長期的な事業継続が困難な状況といえる。とりわけ船員の高齢化は深刻な状況が続く。2019年時点で50歳以上の船員の割合は全体の46%超を占めている。高齢船員のリタイア後に備えて若手人材を確保し、定着率を高めていくために各社で一回の乗船期間の短縮などの働き方改革、居住スペースの拡大、作業環境の改善などに取り組んでいるが、業界一丸で職業としての魅力を高め、多くの人材を呼び込むことが重要となる。

 一方、1966年から開始された「船腹調整事業」および98年に導入された「内航海運暫定措置事業」に基づいて約50年間実施された、船舶の供給に関する規制は間もなく終了する。納付金の納付義務がなくなって実質的な船価は低減。付随して行われていた積荷制限などもなくなるため、代替建造の促進や事業者間の競争が促進されることが予想される。

 こうした事業環境の大きな変化を踏まえて、脆弱とされる内航海運各社の事業基盤の強化も急がなければならない。中間とりまとめでは、荷主などとの取引環境改善による適正な運賃・用船料を確保する取り組みはもちろんのこと、同時に内航海運業者自らの生産性向上も求められるとしている。

 こうしたなか、すでにICT(情報通信技術)を活用して遠隔から船舶の状態を監視し、機関保守などの運航業務をサポートするといった取り組みが始まっている。新技術による生産性向上は、船上の労働負荷低減など労働環境改善への効果も期待される。今後も積極的に導入するべきだろう。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る