内閣府がまとめた2021年版の「高齢社会白書」によると、国内の総人口に占める65歳以上の割合は28・8%に上る。1950年には総人口の5%に満たなかったが、94年には14%を超え、高齢化率は上昇を続けている。25年には30%、団塊ジュニア世代が65歳に到達する40年には35%を超えると予想する。

 人生100年時代、健康こそ最大の資産とも言われるなかで、弘前大学が中心となって展開する「岩木健康増進プロジェクト」に年々注目度が高まっている。中核を担うのが、弘前市岩木地区(旧岩木町)で05年から毎年行っている大規模な健康診断だ。1人当たり5~7時間かけて、頭からつま先までの2000項目以上にも及ぶ網羅的な検査を、16年にわたり延べ2万人以上の住民に実施。ゲノムから軽度認知機能関連まで幅広く測定し、健康な人たちを対象とした世界に類のない「健康ビッグデータ」を築く。

 13年には文部科学省が推進する革新的な研究を支援する事業「COI(センター・オブ・イノベーション)」に採択され、拠点には50社近くの企業が参画。健康ビッグデータを活用した疾患の予兆発見や予防法の開発などに向けた共同研究先は、大きな広がりをみせる。

 例えば味の素とは、健康ビッグデータ解析と血液中のアミノ酸濃度から、現在の健康状態や、さまざまな病気の可能性を評価するアミノインデックス技術を組み合わせ、新たなデジタルリスクスクリーニングの確立などを目指す。健康課題解決のための製品やサービスのコンセプト創出も手がけるという。

 花王とは健康ビッグデータを用い、内臓脂肪面積の小さい人は腸内細菌の一種「ブラウティア菌」が多いことを見出した。生活習慣病のリスクを高める内臓脂肪に対するアプローチの一つになると研究成果に期待を示す。

 平均寿命が全国最下位の常連である青森県は「課題先進地域」として最適な実証開発フィールドともいえよう。弘前大COI副拠点長(戦略統括)としてプロジェクトをけん引する村下公一教授は「最短命県だからこそ、イノベーティブな知見が生み出せる」と指摘。一方、男性の平均寿命の伸び率において青森県が全国3位を記録するなど、取り組みは着実に効果を表し始めたと強調する。

 高齢者の健康増進や膨張する医療費に、どう向き合うかは今や世界的な課題だ。世界に先駆けて高齢化が進む日本は、アジア各国の近未来の姿でもある。それを乗り越えるための一つの方法として、短命県脱却のノウハウが世界に広がることを期待したい。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る