今春に「大阪公立大学」が開学した。大阪市立大学(市大)と大阪府立大学(府大)が統合して誕生した。幅広い学問領域を生かし、学部間などの垣根を越え「総合知」を発揮しながら、大阪はもちろん日本の成長、さらには世界が抱える課題の解決に貢献してほしい。

 市大は1880年(明治13年)発足の大阪商業講習所に端を発し、府大は83年(明治16年)に設けられた獣医学講習所を源流とする。ともに140年余りの歴史を有し、大阪の産業、経済、医療などの発展に寄与してきた。それぞれが各分野で役割を果たしてきたが、今から約10年前に統合構想が持ち上がった。人口減少といった問題を背景に、知を結集して新たな拠点を形成しようと議論を重ね、取り組みを進めてきた。

 今月、第一歩を踏み出した大阪公立大学は1学域(現代システム科学域)11学部(文学部・法学部・経済学部・商学部・理学部・工学部・農学部・獣医学部・医学部・看護学部・生活科学部)、大学院15研究科を擁している。学問分野をフルラインアップした約1万6000人の学生が在籍する公立大学は、国内には他にない。

 目指すのは「高度研究型大学」。新たな知の発見や次代を担う人材育成、そして大阪を、より魅力ある街へと発展させていくうえで取り組まなければならない課題の解決策を提示する-という公立大学の使命を果たしながら、世界で存在感のある大学へと進化させていく。

 持続可能な社会の実現をはじめ地域、日本、世界が抱える問題は多様化、複雑化しているが、学域・学部、大学院研究科が協力しつつ、企業や自治体とも連携しながら諸問題を解決へ導く。市大と府大は学問領域があまり重複せず補完関係にあり、融合による相乗効果は大きいとみる。

 統合の象徴の一つが大阪の感染症対策を支える大阪国際感染症研究センター。さらに市大はカーボンニュートラルに資する技術として、太陽光エネルギーと二酸化炭素(CO2)を用いて基礎化学品を作り出すことを可能とする人工光合成などの研究に、府大は新たながん治療法の一種であるBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)や植物工場といった研究に励んでおり、感染症以外でも統合のシナジーが生まれることを期待したい。

 4月11日には大阪城ホール(大阪市)で開学式と一期生の入学式が行われた。学生たちには専攻する学問以外の知識も貪欲に吸収してもらいたい。また新型コロナウイルス感染症が収束にいたらないなかでも無二の親友と出会い、学生生活を楽しんでほしい。

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