新型コロナウイルスの感染拡大対策として、生活のあらゆるシーンでデジタル化が急速に浸透している。代表例がテレワークだろう。外出自粛を余儀なくされる環境にあって各企業がウエブ環境を改善し、この1年間でテレワークは当たり前の働き方となった。

 企業の営業活動でもデジタル化の進展が見て取れる。とくにオンライン展示会の発展は目覚ましく、現在では各社がさまざまな趣向で独自の展示会を開催している。例えば2020年5月、クラレは業界に先駆けて自動車業界向けのオンライン展示会を開始。耐熱性ポリアミド樹脂や液状ゴムなどクラレグループの素材でソリューション提案を行った。以降、農業・畜産や包装、スポーツ&アウトドアなどと間口を広げ、顧客接点の拡大に力を注いでいる。

 対面の展示会が相次いで中止されるなかで、クラレがオンライン展示会にいち早く対応できたのはマーケティンググループの存在によるところが大きい。横串機能を生かした事業間連携を強化しようと「自動車」「農業」といった領域で専門チームを発足。関連部署から人員を募り、自社素材や関連市場の知識など共有化したうえでワンストップの提案活動を行っていた。この組織がオンライン展示会を主導した。いわば横串機能ならではの成果発現の場であり、本格的な商談に発展するケースも数多く見受けられたという。

 帝人のオンライン展示会も興味深い。現在開催中の「テイジン マテリアル総合展」はマテリアル事業全体でデジタルマーケティングを運用することが狙い。各事業からデジタルマーケティング担当者を選出して横断組織を発足。同組織が主催して独自の展示会を創出した。

 一つの素材に対して多角的な使用法を訴求する展示内容となっており「来場者に刺激を与えたい」(帝人)という。ただ、単なる素材の紹介には、とどまらない。データ運用のプラットフォームとして利活用しようというのだ。例えば寄せられたコメントを「自然言語処理」などで解析し、顧客の潜在的なニーズを掘り起こすという。顧客の興味が特定の領域に偏りがあると分かった場合、その領域に適した素材提案などにつなげる。

 NTTデータ経営研究所が提言した「オンライン・ファースト社会」。オンラインをリアルな人間の活動と同じ価値を持つ「新しいリアル」としてとらえる考え方だ。両社の展示会の例からも分かるように、これからの企業のマーケティングには対面とデジタルのハイブリッドが必須となる。新しいリアルに乗り遅れてはならない。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る