三菱ケミカルホールディングス(HD)が1日、2025年度までの経営方針を公表し、石油化学事業、石炭事業を切り離すと明らかにした。ジョンマーク・ギルソン社長は「成長軌道を取り戻すために事業を絞り込む」として半導体材料など「エレクトロニクス」、医薬品など「ヘルスケア&ライフサイエンス」を軸に成長を目指すと語った。また「世界がカーボンニュートラルにフォーカスするなかで、日本のエネルギーコストは上昇する。国内市場の成長は限定的で、石化、炭素の両事業は日本では統合や再編が避けられない」と説明した。日本の石化プレーヤーとの統合、新規株式公開、株式売却などの手段を検討する意向で「両事業を完全に切り離すことが中期的なゴール。業界のリーダーとして再編、統合を推進する」と述べた。

 日本でエチレン設備(ナフサクラッカー)に最初の火が灯った1958年から60年余り。この間、石化業界は幾多の試練を経験した。シェール革命や円高などの「六重苦」が引き金となり、14~16年にかけて国内では3基のエチレン設備が止まった。世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロに抑えるカーボンニュートラルという次なる「黒船」の襲来が、石化業界に新たな再編を迫りつつある。

 温室効果ガス排出量を国内業種別にみると、化学は鉄鋼に次ぐ2位だが、それは石化プラントに起因する部分が多い。あるアナリストは「三菱ケミカルHDが仮にエチレン設備2基を切り離せば、同社が掲げる『30年度までに温室効果ガス排出量29%削減(19年度比)』の目標は達成できるはず」とみる。

 一方で温室効果ガスを多量に排出するのは、サプライチェーンの川上に立ち、大量の製品を世の中に供給する素材産業の役割ゆえでもある。別のアナリストは「温室効果ガスを多量に排出する企業を単に『悪』と決めつけるのではなく、同じ業種との比較でその企業がどれだけ効率的か、競争力があるかに眼を向けるべき」と指摘する。

 石化産業はプラスチックや合成繊維、医薬品原料などの供給を通じ、人々の豊かな生活に貢献していることは論をまたない。株式市場から温室効果ガス多量排出型事業への圧力は強まるが、石化事業の持ち分を下げるなどして連結対象から外せば批判がかわせるわけでもないだろう。

 カーボンニュートラルの達成には、技術開発や設備投資に多額の費用がともなう。英知を結集する必要もある。日本の石化業界には、目先の風潮に流されず「日本の石化産業のあるべき姿」をしっかりと議論してもらいたい。

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