菅義偉首相の所信表明で、各紙で大きく取り上げられたのが温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとする目標だ。所信のテーマ、大きく8つのうち「新型コロナウイルス対策と経済の両立」「デジタル社会の実現」に続いて3番目に挙がった。「50年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、諸外国に向けて具体的目標を明確にした意義も大きい。GHG実質ゼロのハードルは高いが、近年多発する異常気象をみても猶予はない。あらゆる学会、産業界を含め、不可能を可能にする意気込みをもって対応策を作り上げてほしい。

 とはいいつつ、日本の産業界は1970年代のオイルショック以来、省エネ努力を続けてきた。「乾いた雑巾を絞る」という表現も、長きにわたって当然のようにいわれており、無駄を極力省いた合理的な製造現場は日本の企業の強みともなってきた。もちろん所信表明にもあるように次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした革新的なイノベーションに大いに期待したいが、産業界の省エネ推進には限りがある。

 加えて一般市民が消費するエネルギーに目を向けることが必要だ。日本の世帯当たりの家庭用エネルギー消費量は米国の半分程度、欧州各国の3分の2程度とされ、決して多くはない。冷暖房も、日本人の多くは居室にいる間だけつける傾向が強く、全室・長時間にわたりつけっ放しが習慣化されている国に比べて消費量は少ない。それでも現在の日本の家庭用エネルギー消費量は高度経済成長前の1973年の2倍規模で、バブル崩壊前の時期より多い。LED(発光ダイオード)照明の普及のほか、省エネ家電も進化しているが、世帯当たりのテレビ保有台数、パソコン、インターネット接続のための機器類、ゲーム機、各種の機能性家電、スマートフォンなど、電力を要する機器の数は増加の一途にある。

 人々の購買意欲を刺激する製品を次々生み出して経済を好循環させていくのが理想である。「環境はお金にならない」といわれ続けてきたように、いかに環境に良いものでも販売価格が高まれば商売として成り立たないのが常識だった。だが、ここにきてレジ袋の有料化が義務化されたように、一般消費者にとって不便なことでも「環境のため」とする政策が打ち出されてきた。先送りされた住宅の省エネ基準義務化の復活のほか、電力を必要とする設備機器の省エネ対応の義務化など、消費者に若干不便でも推し進めざるを得ない-。そんな時期がきているといえそうだ。

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