睡眠は、身体や脳の疲労回復に重要な役割を果たしている。睡眠不足や質の悪い睡眠では成長ホルモンが十分に分泌されず、免疫細胞の減少などにつながってしまう。しかしながら、経済協力開発機構(OECD)の2021年版調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と加盟国中で最下位。これは全体平均の8時間24分を1時間以上も下回る。

 日本人の睡眠不足が懸念されるなか、これら課題を技術力で解決する「スリープテック」という言葉もよく耳にするようになった。「Sleep」と「Tech」を掛け合わせた造語で、眠りの質を高め、快眠を促すための製品やサービスなどを指す。

 新型コロナウイルスの感染拡大は人々の生活を大きく変えた。スリープテック製品を扱うブレインスリープ(東京都千代田区)の調査では、コロナの拡大によって「睡眠への意識が上がった」と答えた人は19%に達しており、自身の睡眠を見直す人が増えている。睡眠に対する研究も、ここ数年で急速に進むなか、ビジネスチャンスの発掘を狙う企業は増えている。

 帝人フロンティアは、健康アプリ開発のFiNC Technologies(フィンクテクノロジーズ、東京都千代田区)と組んで、睡眠の質向上について助言するサービス「スリープコンシェルジュ」を展開している。専用デバイスをシーツなど寝具の下に設置して就寝することで、睡眠中の体の動きや心拍数などのバイタルサインを計測。睡眠の時間や質を評価し、睡眠習慣改善へのアドバイスを提供する。新たに短時間の使用でも睡眠評価が行えるサービスを開発しており、ホテルなど宿泊施設向けに提供を始めた。

 睡眠市場をターゲットに事業展開に力を入れる企業は、日用品や食品でも相次ぐ。小林製薬は、耳に睡眠に深く関わる副交感神経が集まっている点に着目した。寝付きの悪い夜に発熱体で耳を温めることでリラックスさせ、安眠を促す耳栓「ナイトミン 耳ほぐタイム」は、昨年10月の発売から今年6月末までに119万個を出荷したという。睡眠の質向上などの機能をうたうヤクルト本社の乳酸菌飲料「ヤクルト1000」は、品薄状態が続いて生産体制の増強を決めた。

 睡眠の質の低下は長期化すれば、うつ病などメンタルヘルスの問題や生活習慣病のリスクにもつながる。睡眠の質向上が現代社会の喫緊の課題の一つであることは明白だ。睡眠の悩みを細分化し、個々人のニーズに応じた快眠製品の開発が一層進むことを期待したい。

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