千葉県市原市が資源循環型の都市づくりに挑んでいる。石油化学を中心とするコンビナートの街を持続可能な形態に移行させる試みは、国内で石化基地を抱える多くの都市のモデルになるだろう。

 房総半島の中央に位置する市原市。都心や成田空港から50キロメートル圏内という優位な立地を生かして発展してきた。とくに北部の臨海部は国内最大級の石化コンビナート群を抱え、2019年の製造品出荷額は4兆4380億円と全国2位。エチレン生産能力や原油処理量の全国シェアは、それぞれ34%、14%を誇る。

 市の税収の4割を臨海部の企業の法人市民税や固定資産税が占める。ただ基幹産業は内需減少や国際競争の激化にさらされ、設備老朽化などにも直面する。カーボンニュートラル実現には新たな資源循環の取り組みが欠かせない。

 市の人口は03年をピークに漸減傾向にあり、今年2月時点で27万3582人に減少した。1995年ころまで転入超過だった20~30代が00年以降は転出超過となった。流出を食い止めるためにも魅力的な街づくりが急務だ。

 種々の課題に対応すべく市は今年3月、「市原市SDGs戦略」を策定し、5月に内閣府から千葉県初の「SDGs未来都市」に選定された。市ならではの魅力や地域資源を生かし、市民や企業と一体となって「SDGsのシンボルとなるまち」の実現を目指す方針だ。

 これら取り組みの一環として、10月25日に素材開発やブランドコンサルを手掛けるhide kasuga 1896と連携協定を結んだ。企業や市民を巻き込んだ資源リサイクルの実証実験や、臨海部ならではの新産業の創出、市民への教育プログラムの導入などに共同で取り組む。

 小出譲治市長は「数十年先も今と同じ産業形態が続く可能性は低い」とし、石化産業も持続可能なかたちへ転換しなければ存続できないと危機感を露わにする。行政だけでの変革は難しく、フットワークの軽い民間企業の知恵も積極的に採り入れようとの姿勢は評価できるだろう。

 市の内陸部には経済成長とともに開発された大規模な新興住宅地が点在するが、小出市長は、市民の多くがプラスチック産業への関心が低いことが人口流出につながったという。持続的な発展には臨海部工業の競争力強化を促し、継続な操業と魅力的な産業を創出することが不可欠だ。

 カーボンニュートラルや廃プラ汚染問題で石化産業に逆風が吹くが、持続可能な社会にプラスチックが不可欠であることも論を待たない。石化の街による新たな価値を生み出す挑戦に期待したい。

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