事業環境に厳しさが増すなか化学企業が事業の選択と集中を加速し始めた。とくに少子高齢化を背景とした国内市場の縮小に対応し、基盤としてきた事業にも手を付ける「聖域なき構造改革」が打ち出されている。これにより成長事業に経営資源を集中投入し、持続成長に向けて大きく舵を切る。
 宇部興産は三菱マテリアルとの間で、セメント事業の統合に向けて具体的な協議・検討を始めることで基本合意した。すでにセメント販売・物流機能を統合しているが、生産機能を含めた同事業全般と関連事業まで統合する。両社は1998年の折半出資会社設立当初から生産機能の統合を検討していた経緯があり、それが約20年の時を経て実現することになる。
 統合範囲は両社の国内外におけるセメント事業および生コンクリート、石灰石資源、エネルギー・環境関連、建材など各事業。宇部興産の建設資材部門は今期見込みで全売上高の4割超を占めており、中核事業が連結対象から外れることになる。かねてから掲げる化学部門を中心とした成長を目指していく。
 この決断を後押ししたのが国内セメント需要の減少だ。エネルギー価格の高止まりなどのコストアップもあり、従来の両社の関係を発展させる必要性に迫られていた。
 セントラル硝子とAGCは昨年12月、国内建築用ガラス事業の統合で基本合意。今年末の統合完了を目指し協議を進めている。背景にあるのは、やはり新設住宅着工件数の減少といった内需縮小だ。複層ガラスの普及にともなう需要構造の変化もあって合理化や流通形態の変革が行われてきたが、厳しい経営環境は変わらなかった。セントラル硝子は同月末、厳しい市場環境下で経営状況が低迷していることを理由に、米国建築用加工ガラス事業からの撤退も発表している。
 昨年は日本触媒と三洋化成の経営統合、昭和電工による日立化成の買収発表と、化学業界の再編に向けた動きが一気に加速した。グローバル市場において競争に耐え得る規模への拡大、持続成長を目指して技術補完・新市場獲得を図ることなど目的は多様だ。同様な状況にある化学企業も多く、その他の動向が注目されている。
 厳しい市場環境下にある事業の統合、さらに企業同士のM&A(合併・買収)に共通するのは、その先にある危機感だ。汎用品から高機能製品へのシフトを進めることで、日本の化学企業は儲ける体質を築いてきた。厳しい事業環境に打ち勝つためにも、さらに一歩踏み込んだ大胆な決断が求められる。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る