「SDGs対応の素材はありますか」。ある健康食品・化粧品原料メーカーの社長から、こうした問い合わせが最近になって急増していると聞いた。

 健食、化粧品の天然素材には、未使用資源を付加価値化するアップサイクルの原料が多い。食品加工の製造工程から出る肉や魚の皮、果物の皮や種子などに含有される有効成分を抽出している。

 これまでは、それら有効成分の規格や品質、ヒト臨床試験のエビデンスの質などが重視されていた。それはいまも変わらないが「ESG投資」「SDGs」と言われるようになってから、サステナブルな原料としての脚光を浴びるようになった。

 こうした原料は、扱う側からすれば「今さら」と思う向きもあるだろう。冒頭の社長も「『天然由来で残渣物を有効活用している』と言っても相手にされなかったのに、状況が大きく変わった」と複雑な心境を明かす。

 しかし単に天然由来というだけで、SDGs対応を訴求する製品を作りたいユーザーの要求を満たせるわけではない。原料の調達が持続可能なかたちでなされているか、それが人道的か、原料製造プロセスの温室効果ガスやCO2の排出量はどうか、水やエネルギーの使用量は多くないか-など環境に負荷をかけないことが求められる。うわべだけの環境対応を「グリーンウォッシュ」と批判する動きも出ており、あらゆる面に厳しい目が注がれる。

 昔、人類は自然の物を無駄なく、余すことなく使っていた。狩りで獲物を捕れば肉を食べ、皮を衣服にし歯や骨を武器や道具にした。それが、いつか特定の部位だけに価値を見出し、血眼で追い求め、それ以外の部分を放棄するようになった。

 アップサイクルが注目されることは、人々の目を再び、こうした方面に向ける機会をもたらすかもしれない。軽視していたものにも価値があるのでは-と考える姿勢は、より良い世界を作るうえでも役に立つだろう。

 自然のありのままの姿を追い求めることは、もはや幻想に過ぎない。不自然に不自然を塗り重ねてきた上に、人類は立っている。それでも、地球が健康に機能する前提が崩れたら、人類の営みは成り立たなくなる。

 ある人は自問するだろう。SDGsやESGを、ビジネスの文脈だけでとらえていないか。これ以上、母なる地球を痛めつけないために、われわれは何をすべきなのか。

 そして原料メーカーに、こう問い合わせる。「地球の存続に対応できる素材はありますか」と。

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