一定条件を満たした医療用医薬品を、一般用医薬品(OTC)などとして薬局で処方箋なしで購入できるようにする仕組み「スイッチOTC」が、停滞を余儀なくされている。日本OTC医薬品協会の調査によると、スイッチOTCなどの承認申請をしたものの5年以上審査が始まっていない、あるいは審査中のまま停止している製品が11品目に達していることが分かった。最長11年もの間、“塩漬け”の製品さえあるという。規制改革推進会議での指摘の通り「海外ではOTCとして買えるが、日本では買えない」という「OTCラグ」が生じていると言わざるを得ない。

 企業の申請に基づき、対象製品の安全性などを医薬品医療機器総合機構(PMDA)や厚生労働省で審査・議論した後に、薬事・食品衛生審議会での了承を得てスイッチOTC化が決まる。長い期間にわたって多くの人に使われ、副作用が比較的少ない成分が対象となる。例えば花粉症などの抗アレルギー剤で実績がある。医師に掛かることなく薬局で購入できるため、健康増進や予防に貢献するだけでなく、医療費適正化を図るうえでも重要な役割を担うと期待されている。

 しかし、日本OTC医薬品協会が4月に公表した調査結果によれば、審査が始まらないなど“塩漬け”状態になっている製品が複数あることが判明した。スイッチOTCに限ると、5~10年以内で4品目が、10~15年以内で1品目がたなざらしとなっている。さらに否定的な判断が下された場合に「その後、再申請すればよいのか」などが不明瞭なことも多く、医薬品メーカーが困惑している姿も浮き彫りになった。

 「乱用が心配」「不適切に使われた際の安全性が懸念される」といった、スイッチOTCに対して慎重な厚労省や日本医師会の意見も確かに一理ある。乾癬や認知症のように、専門医による診断の下で適切に処方する必要があると思われる製品もある。また厚労省も昨年、セルフケア・セルフメディケーション推進室を新設するなど体制整備に努めていることは評価できる。だが、明確な理由を伝えずに“塩漬け”を続けるなどの対応を繰り返すようでは「既得権益を守っているだけだ」との批判は免れない。

 「申請受け付け後は一定期間内に結論を出す」といった仕組みの制度化など、スイッチOTCを前に進めるための取り組みが、今まさに求められている。同時に否定的な見解となった場合、再度挑戦する際の道筋を明確化することも欠かせない。緊急避妊薬のようなOTCラグを、これ以上広げるべきではない。

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