燃料アンモニアの社会実装にはさまざまな課題がある。火力発電燃料に用いるには安定した燃焼技術が求められ、水素キャリアとするには脱水素触媒が必要になる。原料の水素源を化石資源から得るには二酸化炭素(CO2)貯留地の確保、再生可能エネルギー由来とするには効率的な水電解装置の開発が不可欠。ハーバーボッシュ法に代わる低温低圧のアンモニアプロセスは大きなチャレンジといえる。

 これらの課題に劣らず重要なのが、燃料アンモニア利用国を広げることだ。中東、豪州などの天然ガス、再エネ資源国は燃料アンモニアの製造・輸出に関心を示すが、利用国が日本だけでは確固たるサプライチェーン(SC)を築くことは難しい。燃料アンモニアに対しては欧州などに、環境特性を疑問視したり石炭火力発電の延命策と批判する向きもある。日本の孤立は避けなくてはならない。

 燃料アンモニアの利用は将来的にはガスタービン発電が有力だが、日本政府、電力各社は石炭火力混焼を急いでいる。CO2フリーアンモニアなら混焼した分だけCO2排出を減らせる。2030年50%削減、50年排出ゼロという目標との整合性はとれるのかという疑問は出ようが、世界がロシアからのエネルギー依存脱却に向かう中で、石炭火力に当面は頼らざるを得ないのも事実だ。

 石炭火力新設はもうないとしても、アジア各国には新鋭石炭火力発電設備が日本以上に多数存在する。安価な石炭を燃料とするこれら設備を可能な限り使い続けたいという事情は理解できる。

 燃料アンモニア利用技術開発に取り組む日本企業によるアジア市場展開の動きが21年から相次ぐ。IHIはマレーシア、インド、インドネシアでアンモニア混焼・専焼技術の利用技術の検討などを目的とする事業化調査(FS)や技術検証を、現地エネルギー企業などと共同で実施。三菱重工業はインドネシアでアンモニア混焼およびSC構築に向けたFSを開始した。

 東洋エンジニアリングはインドネシアでグリーンアンモニア生産に関するFSを同国肥料大手と共同で実施する。同社は日揮ホールディングスとアンモニア生産設備、受入基地建設で提携することを決めており、世界規模のアンモニアSC構築に貢献する。

 混焼・専焼によるCO2削減を主張するにはCO2フリーアンモニアであることが前提で、評価手法確立に向けた各国の議論も重要だ。欧州が関心を示さないアンモニアの環境特性を主張するには、アジアでSCを構築するなど利用国の仲間づくりを進めることに大きな意味がある。

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