家畜の飼育をめぐり、アニマルウェルフェアを重視する動きが国内に広がってきた。農林水産省が「畜種ごとの飼養管理等に関する技術的な指針」の策定に向けて、6月に指針案のパブリックコメントの募集を行った。民間企業もデジタル技術を用いた健康管理の提案・実用化を始めている。家畜にストレス・苦痛の少ない飼育環境を目指すアニマルウェルフェアは、世界的常識と言えるもの。日本でも国民一人ひとりが真剣に意識していくべき時期にある。

 指針は、日本が加盟する国際獣疫事務局(OIE)による畜種毎のアニマルウェルフェアに関わる勧告「陸生動物衛生規約」(OIEコード)の水準を満たすため国が定める。指針案は、畜産技術協会が自主作成した飼養管理指針をたたき台に実施推奨事項、将来の実施が推奨される事項を整理した。対象畜種は「乳牛」「肉牛」「豚」「ブロイラー」「馬」と、昨年5月のOIE総会で諮られた「採卵鶏」のコード案。内容は管理方法・栄養・家畜舎・家畜舎の環境ルールに及ぶ。これらに「輸送」「農場内での殺処分」を加えた8つの個別指針で構成される。発出後は国が実施状況をモニタリングし、実施が推奨される事項の達成目標年次を設定。項目によっては補助事業のクロス・コンプライアンスの対象にするなど、アニマルウェルフェアの普及・推進を加速させる。

 化学企業の畜産向け製品には、生産効率重視の飼料添加剤、動物薬・製剤が多い。アニマルウェルフェアに役立つ機能資材となると、クラレトレーディングによる畜舎向けアンモニア臭分解シート「さやか」、細菌など病原性微生物が乳房内に侵入するリスクを低減させる、トクヤマの乾乳期乳牛向け外部乳頭シール「ティートナー」などがあるが数は限られる。

 東洋紡は、フィルム状導電素材「ココミ」を使った、健康管理のための牛用ベルト型スマートテキスタイルの検証を進めている。デジタルによるスマート化・見える化はファームノート、デザミス、the Betterといったベンチャーが存在感を増している。外資系ではMSD アニマルヘルスが牛用モニタリングシステム「センスハブ」を展開。ベーリンガーインゲルハイム アニマルヘルス ジャパンは、AIにより豚の咳の音を解析する健康管理支援システムを検証中だ。

 畜産は飼育戸数が減少する一方、一戸当たりの飼育規模が拡大し、転換期を迎えている。家畜が快適に過ごすためには、化学素材やデジタル技術による貢献が欠かせない。化学業界からの積極的なアプローチを望みたい。

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