世界保健機関(WHO)によると、7月初頭時点でインドの新型コロナ感染者数は3000万人強と、米国に次ぐ世界2番目の多さ。首都ニューデリーのほか西ベンガル州や、商都ムンバイを擁するマハラシュトラ州、南部ケララ州など主要州で部分ロックダウンや夜間外出禁止令などが継続されており、2回のワクチン接種を完了した人口比率は5%以下にとどまる。

 感染第2波に見舞われた5月以降、政府は全土フルロックダウンを避け、感染抑止と経済活動維持のバランスを懸命に保ってきた。国営インディアン・オイルや化学最大手リライアンス・インダストリーズも、操業維持のため工場内に従業員専用宿舎を建設したり、モニタリングシステムの導入を進めた。6月は燃料需要が前月比で1割以上増えたとみられ、化学品需要も回復しつつある。

 インドでは複雑な土地取得手続きや法人税制が外国投資の足かせだったが、モディ政権はコロナ前から電力供給網整備などを含めたビジネス環境改善に取り組み、例えば29もあった労働法は昨年4つに集約するなどの成果を挙げた。工場で火災が発生すると、部分火災でも再開認可に1年以上を要する事例があるといった非効率さはまだ残るが、世界銀行のビジネス環境ランキング(20年版)で同国は世界63位(日本は29位)につけ、5年で80位近く順位を上げた。政府は今後数年で50位以内を目指す。

 インドは化学品の輸入大国で、カ性ソーダや塩化ビニル樹脂を多く輸出する日本をはじめ、世界の化学企業が注目する有望市場だ。しかし近年は国内企業が製品の供給過剰を訴え、輸入品に対する不当廉売関税(ADD)が課されることが増えた。国内製造業保護の観点から必要なケースはあるが、インドではADD賦課後、輸入減少にともなって対象製品の国内価格が想定以上に上昇し、結果的に需要家を苦しめるケースも散見される。化学産業の健全な発展を妨げる可能性があるため、価格決定メカニズムはより公平であるべきだ。

 ある日系企業の現地トップは「コロナ禍で日本がインド市場への関心を失い、事業機会を逸するのでは」と懸念する。現状では一部事業の縮小もやむを得まい。しかしインドの化学品市場は急速な拡大が続き、政府やシンクタンクは、2025年に3000億ドル(約33兆円)と現在の1・7倍に達すると予測する。一部産業で世界的なサプライチェーン再構築が見込まれるなか、生産シフト先としても注目される。日本企業もインド市場を注視し、攻略に向けた計画を長期的に描くべきだ。

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