手放しでトヨタ自動車を持ち上げているわけではない。ただ昨年、日本で初めてとなる売上高30兆円超を達成し、世界的コロナ渦の最中でも「日本経済再生の牽引役」として随所でメッセージを打ち出し、トヨタ本体およびデンソーなど系列グループを挙げ、コロナ対策となる人工呼吸器や搬送タクシー生産など具体的施策を次々と実行。その姿勢は、業種を問わず「ウィズコロナ時代」の企業像として毅然たるものがあるといって過言ではないだろう。

 中部・愛知の地場では、コロナの影響と合わせ世界的な新車需要減退も重なり3、4、5月と、トヨタの本社工場および周辺の国内工場で大幅な減産が実施された。5月の連休明け前後は愛知の地元で「先が見えない状況でどうなるのか」(工場向け設備関連メーカー)、「このまま減産が続けば毎月の資金調達に影響」(自動車向け部材加工会社)など、向こう数カ月先を不安視する企業からの声が相次いでいた。

 ただ6月に入りトヨタは減産幅を縮小。併せて1次、2次、3次、4次メーカーなど脈々と連なる「自動車産業チェーン」関連各社に対し、工場稼働の状況を非常に細かく伝えていた。愛知県に本社を置く樹脂コンパウンド関連会社の社長は「6月中旬に7月の生産計画の連絡が入った。当初の4割減産からフル稼働時比で1割減と減産幅が大きく縮小され正直、この先の事業の光明が見えた」と、ほっとしたようすで語る。

 さらにトヨタは、例年なら半期毎に実施してきた1次サプライヤーへの部品価格の改定要請を、2020年度上期分(4~9月)は見送る方針を決めた。例年なら4月実施だが、コロナ影響で7月まで延ばし、最終的に上期分の改定要請はしないと各社に通達したという。名古屋市の地元銀行関係者は「材料までを含む部品や部材仕入れ先の今の経営環境を考慮した動き」とし「中部における自動車産業にかかわる全企業にとって福音だろう」と評する。

 またトヨタの豊田章男社長が会長を務める日本自動車工業会では、自動車業界でも初の「資金調達互助プログラム」を立ち上げた。自工会の銀行への預金を担保に、業界各社が資金調達できる仕組み。6月初旬に自動車関連4団体として会見した豊田会長は「(日本の宝の)人、モノ、技術を自動車業界として守り抜く」と明言。その具体策の一つとなるものだ。中部・愛知に対して「トヨタだから」といった外野の声もあるが、理念ばかりの経営は必ず傾く今の時代、実践と具体的な行動こそ肝要と改めて感じる。

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