2021年10月の鉱工業生産は前月比1・1%と、4カ月ぶりの上昇となった。ようやくトンネルを脱したかのように見えるが、経済産業省は同月の基調判断を「足踏みをしている」に据え置いた。

 振り返ると、半導体不足などの影響から5月の鉱工業生産は大幅に低下した。6月に上昇に転じたものの7月以降は再び低下。9月までは半導体不足に加えて、アジアでの感染症拡大にともなう部材供給不足などの影響により3カ月連続で低下した。

 10月は自動車工業を中心に生産用機械工業や汎用・業務用機械工業などが上昇した。自動車工業は、普通乗用車や小型乗用車などが主な上昇要因。アジア各国での経済活動制限等による部材供給不足の影響が緩和されたことなどから上昇に転じた。自動車関連材料を扱う専門商社の経営者から「大手自動車メーカーでの需要が回復してきた」という明るい声が聞こえ始めたのも10月ごろだった。

 生産用機械工業は、半導体製造装置や金型の需要増で3カ月ぶりの上昇となった。半導体製造装置は海外の設備投資需要などを受けて、金型は自動車向け需要などを受けたとみられる。

 一方、スチレンモノマーやパラキシレンといった化学品は、低下への寄与度が大きかった。原料調達が滞ったり定期修理の影響があったとみられる。また無機・有機化学工業では、物流の事情で出荷が減少したことや、定期修理に向けた積み増しなどで、在庫が増加している。在庫を多めに抱えようという荷主が増えて危険物倉庫の満床率は高まっているもよう。コンテナ不足による物流の停滞や運賃上昇は、いまだ続いている。

 化学品原材料の輸入価格上昇と供給のタイト化、東南アジア諸国でのロックダウンの影響、世界規模でのコンテナ不足やサプライチェーンの寸断など物流の問題、中国の電力不足、半導体不足による自動車生産への影響など懸念材料は山積している。

 さらに、ここにきて変異タイプ新型コロナウイルス「オミクロン株」の感染拡大による国内外の経済への影響が懸念され始めた。

 経産省が11月上旬に実施した企業の生産予測調査によると、11月は前月比9・0%、12月は同2・4%と、ともに上昇を予測した。この予測を実現するためにも感染を抑制しなければならない。政府はこのほど、外国人の新規入国停止措置などを素早く決めた。有効なワクチンや経口剤の開発を進めるとともに、途上国も含めた各国と協調して感染抑制に努め、わが国の持続的な成長への道を拓いて欲しい。

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