世界でカーボンプライシングの導入が広がっている。世界銀行によれば、64の国・地域が2021年までに導入したという。欧州連合(EU)は国境炭素調整措置(CBAM)を23年にも暫定導入する計画を発表している。EUに製品を輸出する域外企業は、EU並みの気候変動対策を求められる。米議会でもCBAM導入に向けた議論が始まった。日本では経済産業省、環境省で議論を進めているが、産業保護に固執しすぎると競争力が失われるだろう。

 EUは05年に欧州域内排出権取引制度(EU-ETS)を創設し、段階的に対象を広げてきた。温暖化ガスの排出枠を割り当てる制度で、排出枠を超える企業は市場から枠を購入する仕組みとなっている。欧州企業が一方的に不利にならないために、欧州市場へ製品を輸出する域外企業にも同様の対応を求めるのがCBAMだ。

 合理的考え方ではあるが、日本企業には大変厳しい内容でもある。欧州では、北海の洋上風力発電や北欧の水力発電など安価な再生可能エネルギーが容易に調達できる。これに対し日本企業の省エネ余地は小さく、高価な再エネを大量導入すると製品コストが上昇してしまう。

 しかし今やカーボンプライシングの導入は不可避。現実を直視し、どのように制度設計すれば競争力への影響を小さくし、かつ国際的にも受容されるか考えるしかない。鉄鋼のように代替技術のめどが立たない業種には一定に配慮すべきで、努力した企業が報われる仕組みも必要だ。

 「グリーン」あるいは「ブルー」と評価される水素、アンモニア、合成メタンなどを海外から大量導入するサプライチェーンの構築にめどをつけることは、喫緊の課題といっていい。カーボンプライシングが導入されれば、高くても水素を導入するインセンティブが働き、導入が進んでコストが下がるという好循環が期待できる。

 50年のカーボンニュートラル時代に向けて社会構造が大きく転換し、企業や業種の新陳代謝が起こるのは必至だ。化石資源を大量使用する業種はプロセスの大きな転換なしには生き残れない。転換を可能にする技術は新しい産業を形成していくだろう。

 炭素価格がいくらなら自社の事業が生き残れるのか-。シミュレーションしている企業は日本にも少なくないと聞く。カーボンニュートラル時代に存続できる事業なのか冷徹に見極め、存続させるには何が必要かを検討する必要がある。連産品である化学製品では、コンビナート全体の最適化も大きなテーマに浮上してくるだろう。

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