2月25日付社説の「新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンの開発に手を挙げる国内製薬メーカーが見当たらない」との指摘は杞憂だったようだ。今月に入り、大手やベンチャーが続々と参入を表明。本紙が創薬型の製薬24社に先週まで実施した緊急アンケートでは半数の12社が政府の要請に協力したり独自開発に取り組んだり、何らかのかたちで参画しているという心強い結果を得られた。
 PCR検査の態勢拡充を目指すなか、試薬供給に乗り出す臨床検査薬メーカーも相次いでいる。遺伝子抽出の煩雑な作業を改良し、遺伝子増幅の手間を効率化する新技術も登場。検査時間を大幅に縮めたり、インフルエンザなど他の呼吸器感染症を含めた多項目検査も台頭している。PCR以外の検査法も揃い始め、迅速・簡便かつ高精度に未知のウイルスを捉えることが可能になりつつある。
 見えない敵の可視化が進むことで正確に実態を把握でき、治療手段も広がるだろう。既存の治療薬には肺炎症状や合併症を抑制する効果が報告され、適応外使用、治験や臨床研究などさまざまなルートで治療が施されている。既存薬や人工呼吸器で症状を抑えて時間を稼ぎ、その間に本丸のウイルスを直接攻める特効薬や防御するワクチンを開発し、制圧につなげたい。
 欧米の首脳は新型コロナウイルスとの戦いを戦争になぞらえたが、過去の大戦では、エネルギーや通信など現代の豊かな生活を支える基幹技術が生み出された。いまの“戦時下”を技術革新(イノベーション)を進める機会としても捉えられるはずだ。好景気に包まれて所得は向上し、グローバリゼーションは加速したが、新型コロナは、世界の公衆衛生の仕組みが実態に沿った技術革新を遂げていないという事実を突きつけた。
 半導体を軸に発展した物理学に遅れはとったものの、近年の生命科学の進歩は目覚ましい。ゲノム編集やAI(人工知能)など先端技術が組み合わさったことで基礎研究から商業化までの期間は格段に縮まり、既存技術の劣勢を一気に挽回できる。不謹慎を承知で言えば、新型コロナは技術革新をテコに世界に存在感を示す商機でもある。
 古びた体制や規制も見直したい。世界と見比べれば日本の公衆衛生には一定に評価が与えられようが、新興感染症が発生すれば、どこがリーダーシップを執るかで右往左往する時間が致命傷になる。国立感染症研究所の百数十倍以上の予算と人材、そして権限を持つ米国疾病管理予防センター(CDC)も参考に、役割の明確化と組織の強化を早急に進めるべきだ。

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