日本で最初に新型コロナウイルスの感染者が確認されてから1年経った。感染は広がる一方で、大型客船ダイヤモンド・プリンセス号の騒ぎが忘れ去られるほど。米ジョンズ・ホプキンス大学の統計では世界の感染者は9600万人、死者は200万人を超えた。コロナが、これほどまでに世界を席巻することを誰が予想できただろうか。

 対抗の切り札がワクチンだ。一般的に開発に5~10年要するにもかかわらず、わずか1年と異例のスピードで実用化に成功した。メッセンジャーRNAと呼ぶ遺伝物資を活用した世界初の技術は、変異種にも素早く対応できる可能性がある。世界では現在、8つのワクチンが承認され、さらに約80の候補品があり、約200の治験が進む。中期的に見れば、さらに多くの予防手段が手に入るはずだ。

 英大学研究者らのデータベース「アワー・ワールド・イン・データ」によると、世界のワクチン接種数はイスラエルとUAEが群を抜き、欧米が続く。日本ではファイザーが昨年12月に申請したが、承認はまだ。諸外国に比べて出遅れているとの指摘もあるが、膨大な数の健康な人が接種するワクチンは、有効性とともに安全性の確認を怠ってはならない。政府が目指す接種開始は2月下旬で、承認は2月中旬の見通しだ。「国内治験の結果をしっかり精査し、承認を判断する」との厚生労働省の方針は常道といえる。

 治療薬も増えている。日本感染症学会の診療手引きには昨年5月に特例承認された「レムデシビル」、ステロイド薬「デキサメタゾン」、抗体医薬「トシリズマブ」など11種類が並ぶ。他の疾患に使われている薬をコロナに転用したものがほとんどだが、コロナ回復者の血漿を用いたり、ウイルスの増殖を抑制する新薬の治験計画もある。 

 医療提供体制の強化に向け、国会でコロナに対応するための特別措置法と感染症法、検疫法の改正が進む。例えば感染者が宿泊療養などの要請に応じなければ、都道府県の首長が入院を勧告し、応じなければ罰金を科せる。これまでの「要請」から「勧告」へ強制力を帯びた内容に変わる。感染制御のままならない現状ではやむを得まい。

 この一年、新興感染症が予期し得ない事態を引き起こすことを否応なく学んだ。そして、いまだに収束の兆しが見えないという現実がある。自宅療養者の死亡、自殺する若者の増加、コロナ倒産や解雇など悲惨な事例は後を絶たず、社会の分断が思った以上に進んでいるのではないか。日本は緊急事態宣言下にある。コロナ制御に全力を傾けなければならない。

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