化学大手が半導体とヘルスケアの2分野に経営資源を振り向ける姿勢を鮮明にしている。新型コロナウイルスが針路を一段と明確にさせた格好だ。一方、石油化学や自動車分野の損益は大きく悪化し、回復の見通しは不透明だ。しかし石化の技術はケミカルリサイクルなど循環型経済実現に貢献する。自動車分野でもCASEをはじめとする新しいモビリティ社会の実現には化学の力が欠かせない。各社はコロナショックで事業ポートフォリオ改革を急ぐ構えだが、半導体やヘルスケア以外でも新たな価値創造に挑戦する灯を絶やしてはならない。

 昭和電工の日立化成買収。最大の狙いが半導体分野だ。「巨大IT企業のサービスの質は半導体の性能に依存する」と昭電の森川宏平社長。「コロナによりサプライチェーンが『見える化』『単純化』に向かうスピードが速まった。われわれは製品の厚みが増し、サプライチェーンの川上・川下を統合でき、コロナ後の世界にも対応しやすくなった」と強調する。

 AI(人工知能)や5G(第5世代通信)の本格化によって今後、先端半導体の需要が年率6%伸びるとの試算もある。住友化学はフォトレジストをはじめ化合物半導体、半導体用洗浄液などを伸ばし、半導体材料の売上収益を2021年度に18年度比5割増まで引き上げる。三菱ケミカルは今年4月、半導体本部を新設し、統一ブランド「MCSS」を立ち上げた。M&A(合併・買収)も駆使し、半導体関連事業を柱に育成する。三井化学は3つの成長領域に分散するICT(情報通信技術)材料を集積。次のコア事業として早期に1000億円規模へ伸ばす。

 一方、ヘルスケアに経営資源を優先投入するのは旭化成。米ゾール・メディカルを買収し医療機器を柱に育てたが、次は医薬品事業をいかに拡大するか。米ベロキシス・ファーマシューティカルズの買収で米国に橋頭保を築いたのは、このためだ。

 住友化学グループも医薬で大型M&Aを実行した。抗精神病の大型薬「ラツーダ」を有する大日本住友製薬は、ラツーダ後をにらみ、新薬候補化合物を複数持つ欧州のロイバントと戦略提携した。三菱ケミカルホールディングスは田辺三菱製薬を完全子会社化した。蓄積するデジタル、バイオ、素材技術と、田辺三菱の医薬品事業基盤をかけ合わせて予防、再生医療、医療デバイスなど幅広い分野で新事業の創出を狙う。

 損益が悪化する事業を早期に立て直しつつ、成長の種を、いかに多く、早く育てることができるか。コロナと闘いながら邁進していくしかない。

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