先ごろ発表された中堅・専門商社各社の2021年3月期決算。振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大に、いかに対応していくかという一年だった。具体的な変化としてリモート可能な業務の拡大、感染拡大防止策の徹底、デジタル化の推進といったことが挙げられよう。交通費や交際費が減ったこともあり、営業利益は増益のところが多くみられた。これまで無駄な出張・接待が多かったわけではなかろうが「地方の顧客と面会できないと営業活動がしにくい」のは事実だろう。これに対して若手経営者からは「面談という従来の営業スタイルではなく、これを機にデジタルを活用した営業スタイルを推進したい」という声をよく聞いた。「雑談の中にこそ次の商売のネタがある」という経営者がいる一方、そうした点もカバーできる「デジタル化を推進したい」と意気込む若手経営者も目立った。

 業績は減収増益のところが多いが、増収増益の企業もあった。上期はコロナの感染拡大で経済活動が停滞したが、中国経済がいち早く回復し、下期以降は米国も復調してきた。その結果、自動車産業も復調し、半導体不足で半導体関連のビジネスも忙しくなった。医療関連や巣ごもり需要を上手く取り込んで収益を増やした企業もあった。

 一方、大手化粧品メーカーの1~3月期業績をみると、日本以外の地域は好調に推移している。海外は引き続き好調に推移しそうだが、国内は「もうインバウンド需要は戻ってこないだろう」とみる化粧品原料商社もある。そうしたビジネス環境の変化を前提に、事業戦略を立てる必要が出てきそうだ。

 繰り返し発出される緊急事態宣言により日本経済の回復は限定的だ。しかし今後、ワクチン接種率向上とともに経済活動の再開が期待される。今後の見通しについて「景気は緩やかに拡大していく」とする企業が多い。根拠として個人消費の増加や生産・販売の増加などが挙げられる。Eコマースを利用するなど購買の仕方も変わってきた。ただし変異型ウイルスの拡大といった不確定要因もあることから、いぜん慎重な経営判断が求められそうだ。

 さらにコンテナ不足や海上輸送の停滞で、航空便も含め物流費が高騰している。物流費の上昇は製品コストに跳ね返ってくる。それを誰が負担するのかという課題もある。「この状況が、あと1年は続くのではないか」との観測もあり、予断を許さない。

 いずれにしろ商社には、変化に柔軟に対応し、顧客ニーズを満たすという、これまでと変わらぬ姿勢が求められている。

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