化学品専門商社の今年度上期決算が先ごろ出揃った。新型コロナや米中貿易摩擦の影響で減収減益を余儀なくされた企業が多い。末端に近い商材を扱っている商社に比べ、基礎化学品をメインに扱う商社の方が減収幅は少ないようだが「景気が回復してもなかなか売り上げは戻らず、好景気の時もそれほど高収益にならない」と経営者はこぼす。また今期は新型コロナの影響で出張がなくなり交際費も減ったことから、その分は利益を押し上げるが、商社としては喜べない状況である。

 先日、ある大手総合商社の経営者が、商人は人に寄り添うべきという考えから、緊急事態宣言解除後に段階的に出社する社員の数を増やして一時、原則出社にしたという。この考え方には賛否があり、専門商社の経営者の中でも真二つに分かれているが、比較的若い経営者はリモートワークを推奨する傾向にあるようだ。しかしウェブ会議だと音がよく聞こえなかったり、画像が動かなくなってしまったりと、まだまだ技術的な課題もあることが分かった。面談で得られる情報量は非常に多いというのも事実だろう。

 かつて先輩記者から聞いた話だが、ある大臣が自宅で記者懇談会を開いた。番記者が「例の事案は決まったんですか」と尋ねると「決まらないよ」と笑顔で答えながら、記者一人ひとりにお酌して回った。翌日、その事案を「決定」と各紙が報じたが、大臣の答えをそのまま受け取った記者は特落ちとなった。常に大臣に張り付き、よく理解している記者でなければ分からない。こうした離れ業はメールやウェブでは難しいだろう。

 しかし別の発想もある。ある若い経営者は「リモートではできないからといって、すぐに面談に戻るのではなく、他の方法も考えるべきではないか」と指摘した。第3の方法をみつけるのは簡単ではないが、そうした取り組みも必要だろう。

 コロナ禍で各専門商社が挙げた共通の問題として、新入社員の社員教育がある。外部のセミナーは中止となり、社内で教育するしかない。しかし緊急事態宣言が解除されるまで自宅での座学が中心となってしまった。家族と暮らしている社員はいいが、都会に出てきて一人で暮らしていた若い社員への心のケアも大変だったという。「いまだにお客様に紹介できていない」という経営者もいた。さらに問題なのが来年度以降の新卒採用である。各社、採用人数を絞らざるを得ない状況だ。リーマン・ショックの時のような就職できない世代をできるだけ生じさせないよう、官民が一体となって努力する必要があろう。

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