新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって、さまざまな事柄に対する考え方や価値観が変わろうとしている。その一つが働き方だ。多くの人が通勤ラッシュを回避する時差出勤やテレワークなどを経験し、こうした制度の良さを実感し始めている。
 三洋化成は、新型コロナが発生・蔓延する以前から、服装自由化を取り入れるなど働き方改革に積極的に取り組んでいる一社。在宅勤務制度は2019年4月に開始しているものの、職種によっては利用したことがない社員もいた。しかし新型コロナが拡大し始めたころに在宅勤務の指示が出た。初めて自宅で仕事した営業担当者は「思いのほか、はかどった。自宅でもできるものだ」と話す。また研究開発の担当者は「実験はできないが、技術調査や資料作りのためのまとまった時間を確保できた」、プラント工事などに携わる工場勤務者は「資料作成に集中できた。所属するチーム内では新型コロナ収束後も在宅勤務制度を有効活用しようという機運が高まっている」など、異口同音に肯定的だ。
 5月下旬に政府による緊急事態宣言が解除された直後、通常の出勤・勤務体系に戻した企業もある。ある会社の社員からは混雑する電車内での感染を不安視する声だけでなく、在宅勤務の利点を享受できなくなることへの嘆き節が聞かれた。
 テレワークを本格的に導入して働き方改革を推し進めていくには、機密情報の取り扱いや人事評価など現行の規定・制度を見直したり、新たに設けたりしなければならない。また工場で生産ラインに従事する作業員らテレワークが利用できない社員が不満を持ち、自宅で業務に励むことができる社員との間で、あつれきが生じないよう調整しなければならない。
 変革には多大な労力を必要とする。ただし手をこまねいていては将来、不利益をこうむることになるだろう。少子化に加えて、労働力の流動化が進み、ますます雇用の確保が難しくなる時代において、魅力的な職場環境が整っている企業は採用活動において優位に立てる。
 業種の違いにより、会社ごとに充実度合いに差が出るだろうが、熱意を持って、それぞれの働き方改革を実践してもらいたい。二の足を踏んでいる企業には上層部の意識改革も必要だろう。テレワークでは働いている姿が見えず、怠けているのではと思ってしまうが、働き方改革に本腰を入れるには、従業員を信じることが肝要。信頼されていると感じ取った社員の多くは誠実かつ能率よく働き、成果を上げてくれるはずだ。

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